Close To You

(1)

コレットは9年間女王であり、サクリアを失いつつある。
ヴィクトールはトロワの一年後コレットに会いに行こうとしたが
大きなテロで子供を助け命を落とした。
文には出てきませんがこのような設定になってます。
最後はとってもハッピーですが、苦手な方はお戻りください。

別れの日から、もうどれくらいの歳月がたっただろう。
あの日も、そしてそれからもずっと、哀しくても涙が出なかった。
無表情でこけた頬に塗られた紅と、冷たく笑う色のない口元が鏡に映る。
こんな私を見たら貴方は哀しむでしょうね。
でも、今の私にはこうして笑うのが精一杯。
伏せた写真立てを起こし問い掛ける。見つめ返すのは、色褪せた笑顔の貴方。あの頃のままの温かい眼差し。
貴方はもう、何処にもいないとわかっていても、この写真と血の付いた手紙はここにある。
それが私の唯一の支え。


自分が創造し、育ててきた宇宙。そしていつも側にいる私の半身、アルフォンシア。
それが歪み、崩れていく気配に私は今日も心を震わせる。
いつか、こんな日が来ると思っていた。サクリアが尽きるその時を。
本当ならば、新しい女王が選出され自分の後を継ぐ。故郷の宇宙ではそんな営みを繰り返している。
けれど、アルフォンシアは意思を示さない。女王のサクリアを持つものが今だ生まれない証。
まだ完全でないこの宇宙には仕方のない事・・・いいえ、私の不徳。


その夜も私は身を粉にして、星の間に向かった。
光と闇。守護聖はまだ二人だけ。3日に一度は3人で宇宙に力を送っている。あとのサクリアはアルフォンシアの望みと共に・・・
「陛下・・大丈夫ですか」
「ええ、平気よ」
自分を気遣う守護聖達。その顔色も勿論優れない。
力を使った後はいつも抜け殻になっていた。
(もう・・・投げ出したい・・)
何度そう思っただろう。
女王なのに・・。こんなに愛してきた宇宙なのに。
今は・・憎い・・
愛と憎しみは背中あわせ・・


私のこんな憎しみが、そして、これから女王になるであろう少女達の哀しみが、いつか大きくなってあの「ラガ」が生まれたのかもしれない。
アルカディアでの懐かしい日々がふと蘇る。
貴方と約束をした場所。でも・・・二度と逢うことはなかった。
運命も時間も二人には残酷すぎた。
もう、胸も痛まない・・貴方と同じ場所に逝くことさえも出来ないから・・
私は重い体をベットに横たえた。
やがてまた闇に吸い込まれていく・・


アンジェ・・
「?」
取り込まれそうな意識の中で誰かが私を呼ぶ。
遠く・・遠く微かに・・
懐かしくて温かい・・
ずっと忘れていた記憶の欠片・・・


「アンジェ!!」
「・・あ・・レイチェル」
「よ、よかった。いくら呼んでも起きないから心配しちゃった」
「・・もう、こんな時間」
「うん、でも今日は休んでいても大丈夫だよ。ワタシがなんとかするから」
「レイチェル・・ごめんね・・」
「やだ・・謝ったりするなんて・・」
「レイチェル・・泣かないで・・」
補佐官のレイチェルは私が女王でも、普通の言葉で話してくれる。それはずっと変わらない。何でも話せる私の大切な親友。
でも・・最近はこうして気丈な彼女を泣かせてしまう。
理由はサクリアが尽きることでも、宇宙の危機でもない。
ずっと側にいてくれたからきっと気づいている。
私が何をしようとしているかを・・・
「ねえ。今日の報告書を見せて。外惑星アクロスの様子はどう?」
「それが・・」
「そう。もう・・これ以上惑星を失うわけにはいかないわね」
辺境の惑星が次々に崩壊して、空間が淀んでいく。今の私の力では、十分にサクリアが届かないのが原因。
もう・・どうすることも出来ないのだろうか・・
いいえ、たとえ小さな生命でも失うわけにはいかない。
「ヤダ、寝てなきゃダメだよアンジェリーク」
「・・もう少しで人々の住む惑星まで壊れてしまうわ。ふふ。そうね、少し窮屈な宇宙になってしまうけど、母星系まで星々を移動させようと思うの」
「ダ、ダメだよ、今そんな大きな力を使ったら、アナタの命が!」
「大丈夫よ・・ 母星系ならば暫くは私の残す力と一緒にアルフォンシアが守ってくれるわ。位置測定をエルンストに頼んでもらえるかしら」
「・・わかった」
「ありがとう。レイチェル」
力なく笑う私に、レイチェルは涙を堪えて部屋を出て行った。
命なんて惜しくない。この宇宙を守れるならば。
でも、いずれにしても私の命の灯火はもう消えかけているけれど・・



その日の夜、私は力のすべてを使い果たした。
気がつくと横たわるベットの側には、レイチェルと守護聖達が心配そうな目で見つめていた。
「アンジェリーク・・・上手くいったよ。」
「私・・」
「アナタも助かったんだよ。」
涙を流して笑うレイチェル、でもまだ終わってはいない。本当のすべてはこれから・・
私は、胸の前で手を組んでアルフォンシアを呼んだ。この魂こど注ぎ込むために。
私の残す小さな魂の欠片をアルフォンシアをとおして、この宇宙に新たな命を授けます。
それが女王候補となる2つの希望・・・
若く力に満ち溢れた女王ならば星々を元に戻す事も容易に出来るだろう。
もう思い残す事はない・・
でもただひとつだけ。レイチェル、あなたのこと・・
「レイチェル・・・・哀しまないで・・・どうか幸せになって・・」
「ヤダ、何いってるの・・ねぇ・・ねぇ・・・アンジェリーク・・・アンジェ・・
永遠の眠りに落ちていく中で大切な人達の声が聞こえて・・やがて消えていった。
彼女の側には、支えてくれる男性(ひと)がいる・・
(だから大丈夫だよね。最後まで・・無茶ばかりして迷惑かけてごめんね。そして・・・ありがとう)
――さようなら・・・私の宇宙。いつまでも平和と繁栄を――


続きます〜。