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女王の私室に戻ったアンジェリークは、真っ先に鏡を覗いていた。
「やっぱり痩せたよね・・・」
一番辛かったときは、もっとやつれていたが、それでも今日は、人前に出ても恥ずかしくない位に戻ったと思っていたのに。
「あんなこと言うなんて、失礼すぎです」
彼の第一声は、傷ついた。勿論、心配して言ってくれたのだろうが、アンジェリークは、ムッとしていた。
女王として、彼の前で無理をして振舞ったこと。上手く行ったとは思うけど、多分見破られてる。
それなのに、こんなことを一番に気にするなんて・・・
「ふっ・・ふふふふ」
笑うのも体に堪えて、少し情けなくて。でも、こんな風に笑うのも、とても久しぶり。
彼が来てくれたお陰で、少しだけ、心が軽くなったのは確かな気がする。
そういえば、背を向けてばかりで、彼の顔をほとんど見られず、格好もよく覚えていない。
それを今更ながら、とても悔やんでいる心。
まだまだ子供の自分が滑稽に思えてきて、アンジェリークはくすくすと笑った。
それとも、女である自分に、安心したのかもしれない。


コンコン・・
「アンジェリーク。もう起きられるって聞いたよ」
補佐官のレイチェルが、駆け込んできた。
二人のときは、絶対に普段通りに話そう。それが約束だったから、彼女は、こうして名前で呼んでくれる。
「レイチェル、・・ありがとう。あなたも大変だったのに・・・心配掛けて本当にごめんね」
「いいの、いいの、気にしない。今までだって色々あったけどさ。最後は必ず上手く行ってたじゃない。これからだってきっと上手く行くよ」
「うん・・そうだよね」
こうして彼女と言葉を交わすと、独りではないと思える。
独りで苦しいでいると思い込んでいたことが間違いだと気づかされる。
彼女がいなかったら、きっとここまで来れなかった・・・
感謝の気持ちなど、上手く言えないから。そっと握ってくる手を、ぎゅっと握り返すと、レイチェルは嬉しそうにウインクをした。


「ああ!それよりさ、ヴィクトール様が先程いらっしゃったんだって。早速明日のこととか、色々伝えに行こうと思っているんだけど・・・何かアナタから伝言はある・・かな」
「・・ううん、何も」
含みがちに問いかけられた言葉に、アンジェリークは静かに首を振る。
忙しい彼女の手をわずらわせてまで頼むことは何もないから。
それに、もう、会いに行ったなんて、例え親友でも、恥ずかしくて言えない。
「そっか・・。うん、わかったよ。会い足りないって伝えとくからさ」
「!?あっ・・ちょっと待って、レイチェル!違うってば」
もう・・・
アンジェリークはやれやれと、肩を落とした。彼女には結局隠し事は出来ないようだ。
唯一、素の自分になれるのは、彼女とヴィクトールの前でだけ。
でも、これからは、守護聖である彼の前で、本当の自分に戻る事が出来るだろうか・・・
アンジェリークはサクリアを使うために、再び、女王の椅子へと向かって行った。


「失礼しま~す。補佐官のレイチェルでーす☆」
「よう、レイチェル、元気そうじゃないか。相変わらずだな、お前は」
レイチェルが執務室に入ると、守護聖補佐と、普段着のままのヴィクトールが立っていた。
「やだ、もしかしてその格好のまま、陛下に会ったんですか?」
「んっ・・。ああ、もう軍服というわけにもいかんし、結局はこんな格好だ。まあ、流石にお会いするとは思っても見なかったしな。・・・ん?はは、何だ、陛下と俺が会ったのを知っていたのか」
「あー、失敗。・・お願い、アンジェには言わないで・・」
口を滑らせたと、口元を押さえるレイチェル。
女王を、変わらず名前で呼ぶ、昔と変わらないやり取りに、ヴィクトールは、懐かしい教え子を見るような目をして言う。
「さあ、どうするか・・。お前たちは、親友なんだろう。隠し事はよくないんじゃないか?」
「うん。でも、さっきあの子の前でも口滑らせちゃったから、もうバレてるよ、きっと」
「ハハハ。なるほどな」
何が、なるほどなのかわからないが、ヴィクトールは安心したように笑っていた。
二人の友情が健在ならば・・・そんな会話をするくらいの余裕があれば、それ程深刻に心配する事もないのかもしれない。
だが、これで・・
この、守護聖の正装を身にまとえば、そんな考えもまた変わるだろう。
覚悟はとうに出来ていたが、アンジェリークの存在が遠くなってしまうのは確かだ・・


いくつか用意されていた衣装も、迷うことなく、ヴィクトールは女王陛下から賜ったものを選んだ。
重厚なマントを身につけたその姿は、教官として慕った気さくな彼が消えてしまうほど、別人のように見える。
「なあ、レイチェル。おおよそのことは知らされているが、今この宇宙はどうなっているんだ?詳しく聞かせてくれ」
何かを覚悟したように、真っ直ぐ見据えたその真剣な瞳に、レイチェルは怯んだ。
最初の守護聖が彼であったことは、天のお導きなのか。女王陛下のご意思なのか。それとも偶然かなんて、わからない。
とにかく、アンジェリークが一番信頼する人だったのは、喜ぶべきことだと思う。
これで良い方向に向かうことを願うしかない。
レイチェルは、聖獣宇宙の状況を説明するため、多量の資料をヴィクトールの前に広げた。


「ようは、かなり不安定ということか」
「そう。エトワールの育成は順調かつ、確実に行われているけど、宇宙に作用するには、まだ全然バランスが悪いの。それを、正の状態にするのが、女王の力なんだけど、今の状況では・・・」
「負担が大きすぎるんだな」
「・・・そういうこと。 だから、守護聖の存在が必要なの、今すぐ。・・・じゃないと、あの子が可愛そうで。・・・お願い、ヴィクトール様。アンジェを、助けてあげて・・」
珍しく俯いてしまったレイチェルの肩に、ヴィクトールはそっと手を置いた。
「エトワールに掛けるしかないな・・・。それから、これから守護聖になる者たちが、力を合わせれば、必ずなんとかなる。アンジェリークは俺が支える。 なに、大丈夫さ。な?」
「・・・ありがとうございます、ヴィクトール様。少し安心しました・・」
「そうか・・・お前もあまり無理をするなよ」
「うん・・・。あ~、もう、ワタシったら、補佐官なのに・・しっかりしなきゃ」
レイチェルは、ヴィクトールの言葉に、いつもの明るさを取り戻したようだ。
気丈な彼女が、会って早々弱さを見せて、こんな風に自分に頼みこむなど、今までになかったこと。
想像していた以上に、女王の体を苦しめていた宇宙の危機。
それを目のあたりにした今、守護聖になった自分に、何が出来るだろう。
この身が役に立つなら、いくらでも捧げよう。
だが、アンジェリークにとって本当の救いが別のところにあるのも、わかっている。
それを思うと、心が切り刻まれるように痛んだ。


補佐官は、新しい守護聖を連れ立って、まだ真新しい建物の中を案内した。
「ヴィクトール様、後の案内は、明日の式の後でいいですか?これからやることがあって・・申し訳ないですけど」
「ああ、かまわんさ。勝手に散策させてもらうよ。うむ・・・見たところ、聖地はまだ人が少ないんだな。随分警備も手薄だ。何か問題がないか、これから、見回りでもするよ。なんなら、俺が警備に就いても・・・」
「そ、そんなことを守護聖にさせるわけにはいかないよ」
「まだ正式に守護聖になったわけじゃない」
「そうだけど・・」
次の仕事が詰まっているらしく、レイチェルはじりじりとしていたが、軍人気質のヴィクトールを止めることは、今までも出来た試しはない。何を言っても時間の無駄になりそうだ。
「頼む、レイチェル。何かしないと、俺の気がすまないんだ」
こんな風に頑固で一本気だから。
(これじゃ、アンジェリークも大変よね)
案外似た物同士で参るよと、レイチェルは皮肉めいた ため息をついた。
まだ色んな所が穴だらけの聖地を見せるのは心もとないけど、彼になら、信頼して任せられる。
「わかりました・・。じゃあ、お願いします。何かあったら報告してください」
「ああ・・出すぎたことをしてすまんな。それから、女王陛下に一つ・・・・・あ、いや、何でもない」
言いかけてやめた、ヴィクトールの顔をレイチェルは覗き込む。
その表情は硬く、何かを思いつめているように見えた。
「ヴィクトール様?やだな。アンジェと何かありました?」
「いいや。何もないよ。レイチェル・・・、様付けはもうしなくていいぞ。アンジェリークは、わかっていると思うが・・」
ヴィクトールは、少し寂しそうに言った。


「それじゃあな・・。陛下をよろしく頼んだぞ、補佐官殿」
「それはこっちの、台詞。頼りにしてるからね、地の守護聖様!」
二人は、お互いを励まし合うように、そんな言葉を交わして、それぞれの場所へと、歩いて行った。


レイチェルは、ふと振り返って、かつては自分の先生であった人の背中を見送る。
立場が変わったって、彼の教え子なのは、ずっと変わらない。アンジェリークだってそう思っている。
でも・・
女王試験の頃から、あの二人の絆を知っているけど・・・
互いに真面目すぎるから。
女王と守護聖としての二人の行く末を案じずにはいられなかった。


つづく(未定)

なんか、ヴィクレイになってしまいました
レイチェルは書き慣れていないので、台詞がうそ臭いです・・
即出の女の子キャラとヴィク様だったら、創作も読んでるので、結構オッケー
なんですが、エンジュは流石に違和感があってまだ駄目ですね;;
愛着わくまで、認めるのに時間がかかりそうです。
ヴィク様の、聖地に来るときの格好はかなり悩みました。
軍服でもいいかと思いましたが、あれはやはり神鳥宇宙でのものなので、
結局私服に(^^; らしいようならしくないようなで、納得言ってませんが。
背広とかスーツとかは似合わなそうだし・・他に浮かばなかったのです。