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お前が新宇宙の女王となって、かれこれ3日。
歳若い守護聖様たちが主催したお別れ会も終わり、にぎやかだった聖地も今は静かに時を刻んでいる。

 

明日。俺もここを発つ。遥か遠い宇宙へ行く。
形として残ったものは、この成績表だけになってしまったな。
心に残った想いはあまりに大きいのに・・・
陽だまりの花のように、柔らかな微笑み。どこまでも澄んだひたむきな眼差し。
お前という存在だけが俺を癒した。
お前の清らかな涙だけが、この心を洗った。


「ありがとう」
お前に言えないままだ。
「よくやったな」
それが精一杯の言葉だった。


天使になった日。
あの時のお前は輝いていた。
眩しすぎる記憶がよぎる。痛みが胸をよぎる。
このまま、想いを置き去りにして、俺は行くことが出来るだろうか・・
お前を行かせることが出来るだろか・・・
いや、このままの方がいいのかもしれん。
俺は教官として成すべきことは全てした。
もう教えることは何もない。
この心に隙間風が冷たく吹き抜けても
あの笑顔が曇らなければ
未来へ力強く歩んでいけるなら
それでいい。


今日もお前の笑顔に何の変わりもなかった。
優しく穏やかで。何処か儚げで。
お前が女王になったなんて今でも信じられんくらいだ。
だが、お前の背には翼がある。全てを包み慈しむ翼がある。
きっと最初から決まっていたんだろう。
お前は天使になるために生まれたこと。
お前と俺が出逢うこと。
そして、違う路を歩むこと。


今、俺の心は不思議なくらい穏やかだ。落ち着いたと言うべきだろうか。
本当の別れが目の前にあるのにな。
俺はこの想いをずっと否定し続けてきた。
お前は可愛い生徒。自慢の生徒。
それ以上の感情など持ってはいけないと。
愛という感情・・・
罪を背負った者には温かく時として残酷なもの。
求めてはいけない。だが何よりも求めていた自我。
否定すればするほど嫌というほど思い知った。
手に入れたいと思った。守りたいと思った。
この手で・・・お前を・・・・
誰にも渡さない。
何処へも行かせない。
側にいろ。
言えなかった言葉。
それは、俺だけの想い。お前の幸せじゃない。
お前が幸せであること。
それが俺の願い。
お前を愛している・・・・
認めることができたから。今はそう願っている。
綺麗事に聞こえるかもしれん。
だが、遠くで見守ろう。見守り続けよう。
たとえ永遠にお前が見えなくとも。


夜のとばりがおりて、月明かりが執務室を照らし始めた。
慣れ親しんだ部屋。もう明日からは見ることのない景色。
お前がこの席に座って俯きはにかむ姿。
灯りとなって優しく灯る。
こうしてお前を想い出す度に、心温かくなるだろう。
そして、寂しくなるだろう。


ぽっかりと開いてしまった心の隙間を埋めるには相当時間がかかりそうだ。
いつか、懐かしく思える日が来るのだろうか。
自嘲が窓に映る。
重なるように見慣れた影が遠くで揺れた・・・

背景絵
意識の片隅で息づくもう一つのささやかな願い。
さわさわと夜風がお前を連れて来る。
その瞳に秘めた雫を湛え、笑顔を作って
愛しいお前が目の前に来る。


鎖した重い心の蓋が開き始めた。
閉じ込めた想いはもう、甦らせてはいけない。
恐怖に似た大きな波が俺の心に押し寄せる。


このまま堕ちるかもしれない――
そんな恐怖が狂気を呼ぶ。
羽をむしり取り、奪って壊して手に入れたい。
お前のすべてを・・・
それが俺の本当の願いだった――


Fine.

*言い訳*
「I need you」とほぼ同じような感じです。「日暮れ」の続編ぽい。