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――Angelique:side――

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あれから・・・時は流れて、再び雪の舞う季節になりました。
ヴィクトール様・・・覚えていますか?
あのタワーに上って、一緒に夜景を見ようって約束したことを・・・
白いコートに白いブーツ。
少し背伸びをしたお気に入りの服で
今、私は来ない貴方を待っています。
わかっているの・・・どんなに待っても無駄だってことは。
だって貴方は、遠い遠いところにいるから。
けれど、どうしても。・・・ここへ来てみたかったんです。
部屋で独りきりのイブはやっぱり寂しいから。

いろんなことを考えて、泣いてしまいそうで・・・・だから・・・


ケーキを売るサンタさん。行き交う恋人達。幸せそうな笑顔に見えます。
こんなにぎやかな場所、本当は苦手だけど
一人ぼっちじゃないって思えるから、今はホッとする。
あの人たちに、私はどんな風に映っているのかな。
来ない恋人を待つ可哀想な女の子に見えるのかな・・・


うつむいていた私に、サンタさんが試食のケーキをくれました。
ふふ・・甘くて美味しい。
甘いものが苦手な貴方。
でも、いつか、庭園で一緒にケーキを食べて下さいましたよね。
「意外と美味いな」
なんておっしゃりながら・・・
ヴィクトール様・・・貴方がここにいたら
迷わず大きなケーキを買ってくださるでしょう。
でも、あの時みたいに、ちょっぴり眉をひそめたりなさるのかな。


やっぱり会いたい・・・ヴィクトール様。貴方に会いたいです。


やがて人々はまばらになって・・・どんどんベンチが冷たくなってく。
いつのまにか雪が私の髪を濡らして。見上げた空は真っ暗になって。
大きなツリーの明かりだけが、この広間を白く照らしてる。
降りしきる雪は止まない。人影ももうない。
凍える心。
本当にひとりぼっちになってしまったみたいです・・
胸が痛くて苦しくて、涙がたくさん出てきます。
手袋で顔を覆って、私は声を出して泣いてしまいました。
でも、その時、「大丈夫だ。側にいるぞ」って
優しいヴィクトール様の声が聞こえた気がしたの。
不思議。それだけで、私の心が暖かくなります。


私は我侭な子供みたい・・・
寂しい寂しいって、自分のことばかり・・・
それで貴方のことを想っているつもりでいたのかもしれません。


早く大人になりたい・・貴方を支えられるような
貴方に似合う大人の女性に・・


立ち上がって、私は体の雪をはらいました。
今、目の前に貴方が現れたら、きっとすごい剣幕で私を叱るでしょうね。
「バカヤロー!こんな所で何しているんだ!風邪を引くだろ!!」
って大声で。
でも、あの暖かい腕で抱きしめてくれるはず。
いっぱい、いっぱい。壊れるくらい強く・・・貴方は私を。


最後のバスが来て、私はそのバスに乗りました。
赤く灯るタワーの明かり。曇った窓ガラスから見上げます。
あの上から見下ろす夜景は、きっと綺麗だっただろうな・・・
でも一人で登る勇気はなかったです。
大切な約束は、二人で守って果たすものだから。
例え叶わなくても・・・いつかきっと叶えたい。
貴方とふたりで・・・
私達が暮らして行く町を見下ろすの。


メリークリスマス・・・
無事を祈って。遠い貴方に贈ります。
貴方は私の元に必ず帰って来る。今はそう信じられるから・・・

――Victor:side――


雪が降ってきた。この星では珍しいことでもないが。
今夜はやけに寒く感じる。
お前が泣いているような、そんな気がしてな。


あれから、随分時が流れた。
慌しい日々に流されて、考えないようにしていたのかもしれん。
お前のことを・・・

アンジェリーク・・・俺を許して欲しい。
こんなにも長い間待たせてしまって、不安にさせて、すまないと思っている。
だが、今はどうしても側にいてやることが出来ない。
この任務が終わるまでは・・
そして、お前の前で、本当に笑えるその時までは。


いつか交わした小さな約束。お前は覚えているか?
澄んだ冬の空気の中、お前と見る主星の夜景は綺麗だろうな。
お前のことだ。無理をして大人びた格好をして来るんだろう。
その割りに、ケーキが欲しいと俺にせがむんだ。


会いたい・・アンジェリーク・・・・お前に。


テーブル置いた小さなケーキ。
甘いものは苦手なんだが。お前が好きなものだから買ってみたんだ。
ケーキを頬張る幸せそうな顔。今でも思い出せるよ。
ロウソクに火を灯して、今夜はお前を想うことにしよう。
この灯火はお前の微笑みのようだ。
ささやかでも、確実に俺の凍てつく心を溶かしてくれる。
寒い夜だが、今は心が暖かい。


ここは氷河の星。
極限の地に立つと、自分というものが何なのか考えさせられる。
失ったものの尊さも、護るべきものの大切さも、嫌というほどこの身に沁みる。
まだ本当の答えは出ていない。
いや、もう答えはとっくに出ているのかもしれん。
どんなに宇宙を彷徨ったとしても
・・・俺の辿り着く場所はお前以外にはないのだと。


凍りついた窓が時折音を立てる。
ふいにロウソクの炎が消えた。
お前の笑顔が、急に泣き顔に変わる。
やはり今ごろお前は泣いているのか?
そう思うのは、ただの自惚れだろうか・・・


本当は・・・心配で居てもたってもいられない。
日々の厳しさに、陽だまりのようなお前に縋ってしまいたいときもある。
だが、そんな時は思い出すんだ。あの約束を。
いつか、きっと・・・
俺達が暮らしていく町の灯りを、タワーの上から二人で笑い合いながら眺めよう。
必ず叶えるために、俺はお前の元に無事帰る。
信じて待っていてくれるか?


なぁ。もしも寂しいときは思い出してくれ。
俺の心はいつでもお前の傍に在ることを・・・
お前の全てが俺の支えだ。
変わらずにいて欲しい。そのままのお前でいいから・・・
全てを捨てても今度はずっと側にいる。
だから・・・笑っていてくれ。


メリークリスマス・・・・遠いお前に贈ろう。
お前の上に降る雪が優しい粉雪であるように
心から、そう祈っている。


――終わり――

うちの設定では、新婚さんになるまでヴィク様は辺境の惑星に赴任してたので
こんな感じにしてみました。
アンジェサイドは子供っぽく自己中であまり深く相手を想っていません。
うう・・私がへぼいばっかりに(笑 そのせいかとても短期間でできましが
ヴィク様サイドは何日もかかってしまった(^。^;)
短く少ない言葉で感情部分を表すのは難しい・・・