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ヴィクトールはトロワの一年後コレットに会いに行こうとしたが
大きなテロで子供を助け命を落とした。
文には出てきませんがこのような設定になってます。
最後はとってもハッピーですが、苦手な方はお戻りください。


別れの日から、もうどれくらいの歳月がたっただろう。
あの日も、そしてそれからもずっと、哀しくても涙が出なかった。
無表情でこけた頬に塗られた紅と、冷たく笑う色のない口元が鏡に映る。
こんな私を見たら貴方は哀しむでしょうね。
でも、今の私にはこうして笑うのが精一杯。
伏せた写真立てを起こし問い掛ける。見つめ返すのは、色褪せた笑顔の貴方。
あの頃のままの温かい眼差し。
貴方はもう、何処にもいないとわかっていても、この写真と血の付いた手紙はここにある。
それが私の唯一の支え。


自分が創造し、育ててきた宇宙。そしていつも側にいる私の半身、アルフォンシア。
それが歪み、崩れていく気配に私は今日も心を震わせる。
いつか、こんな日が来ると思っていた。サクリアが尽きるその時を。
本当ならば、新しい女王が選出され自分の後を継ぐ。故郷の宇宙ではそんな営みを繰り返している。
けれど、アルフォンシアは意思を示さない。女王のサクリアを持つものが今だ生まれない証。
まだ完全でないこの宇宙には仕方のない事・・・いいえ、私の不徳。


その夜も私は身を粉にして、星の間に向かった。
光と闇。守護聖はまだ二人だけ。3日に一度は3人で宇宙に力を送っている。
あとのサクリアはアルフォンシアの望みと共に・・・
「陛下・・大丈夫ですか」
「ええ、平気よ」
自分を気遣う守護聖達。その顔色も勿論優れない。
力を使った後はいつも抜け殻になっていた。
(もう・・・投げ出したい・・)
何度そう思っただろう。
女王なのに・・。こんなに愛してきた宇宙なのに。
今は・・憎い・・
愛と憎しみは背中あわせ・・


私のこんな憎しみが、そして、これから女王になるであろう少女達の哀しみが、いつか大きくなってあの「ラガ」が生まれたのかもしれない。
アルカディアでの懐かしい日々がふと蘇る。
貴方と約束をした場所。でも・・・二度と逢うことはなかった。
運命も時間も二人には残酷すぎた。
もう、胸も痛まない・・貴方と同じ場所に逝くことさえも出来ないから・・
私は重い体をベットに横たえた。
やがてまた闇に吸い込まれていく・・


アンジェ・・
「?」
取り込まれそうな意識の中で誰かが私を呼ぶ。
遠く・・遠く微かに・・
懐かしくて温かい・・
ずっと忘れていた記憶の欠片・・・


「アンジェ!!」
「・・あ・・レイチェル」
「よ、よかった。いくら呼んでも起きないから心配しちゃった」
「・・もう、こんな時間」
「うん、でも今日は休んでいても大丈夫だよ。ワタシがなんとかするから」
「レイチェル・・ごめんね・・」
「やだ・・謝ったりするなんて・・」
「レイチェル・・泣かないで・・」
補佐官のレイチェルは私が女王でも、普通の言葉で話してくれる。それはずっと変わらない。
何でも話せる私の大切な親友。
でも・・最近はこうして気丈な彼女を泣かせてしまう。
理由はサクリアが尽きることでも、宇宙の危機でもない。
ずっと側にいてくれたからきっと気づいている。
私が何をしようとしているかを・・・
「ねえ。今日の報告書を見せて。外惑星アクロスの様子はどう?」
「それが・・」
「そう。もう・・これ以上惑星を失うわけにはいかないわね」
辺境の惑星が次々に崩壊して、空間が淀んでいく。今の私の力では、十分にサクリアが届かないのが原因。
もう・・どうすることも出来ないのだろうか・・
いいえ、たとえ小さな生命でも失うわけにはいかない。
「ヤダ、寝てなきゃダメだよアンジェリーク」
「・・もう少しで人々の住む惑星まで壊れてしまうわ。ふふ。そうね、少し窮屈な宇宙になってしまうけど、母星系まで星々を移動させようと思うの」
「ダ、ダメだよ、今そんな大きな力を使ったら、アナタの命が!」
「大丈夫よ・・ 母星系ならば暫くは私の残す力と一緒にアルフォンシアが守ってくれるわ。位置測定をエルンストに頼んでもらえるかしら」
「・・わかった」
「ありがとう。レイチェル」
力なく笑う私に、レイチェルは涙を堪えて部屋を出て行った。
命なんて惜しくない。この宇宙を守れるならば。
でも、いずれにしても私の命の灯火はもう消えかけているけれど・・


その日の夜、私は力のすべてを使い果たした。
気がつくと横たわるベットの側には、レイチェルと守護聖達が心配そうな目で見つめていた。
「アンジェリーク・・・上手くいったよ。」
「私・・」
「アナタも助かったんだよ。」
涙を流して笑うレイチェル、でもまだ終わってはいない。本当のすべてはこれから・・
私は、胸の前で手を組んでアルフォンシアを呼んだ。この魂こど注ぎ込むために。
私の残す小さな魂の欠片をアルフォンシアをとおして、この宇宙に新たな命を授けます。
それが女王候補となる2つの希望・・・
若く力に満ち溢れた女王ならば星々を元に戻す事も容易に出来るだろう。
もう思い残す事はない・・
でもただひとつだけ。レイチェル、あなたのこと・・
「レイチェル・・・・哀しまないで・・・どうか幸せになって・・」
「ヤダ、何いってるの・・ねぇ・・ねぇ・・・アンジェリーク・・・アンジェ・・」
永遠の眠りに落ちていく中で大切な人達の声が聞こえて・・やがて消えていった。
彼女の側には、支えてくれる男性(ひと)がいる・・
(だから大丈夫だよね。最後まで・・無茶ばかりして迷惑かけてごめんね。そして・・・ありがとう)
――さようなら・・・私の宇宙。いつまでも平和と繁栄を――

********

白い・・・しろい・・どこまでも真っ白な世界。ここは・・何処。
私の魂は消えてしまったはずなのに。どうして・・・
何かの気配がする。近づいてくる。でも姿は見えない。
「・・・迎えに来た」
「?!」
突然の声に振り返る。低く掠れた声・・。
霧の中から現れた誰かが私に向かって歩いてくる。
大きな体。赤銅色の髪。琥珀の瞳。
(・・・ヴィ・・ク・・トール・・さ・・ま・・)
体が震えて動けない。声も出ない。
あの日のままの姿で、手を差し伸べ優しく笑う人。本当に貴方なの?
指先が触れる。握り締められる手。
温かい・・
忘れかけていた懐かしい温もりが胸を満たす。
「すまん・・・」
「・・・・」
「こんな形でしか、お前を迎えに来る事が出来なかった」
「・・・・」
「お前の側にいて、守ってやることが出来なかった・・・許してくれ」
その言葉に、私は首を振る。何度も、何度も。
何かか溢れて貴方が霞んでいく。
熱いものが込み上げて崩れかける体を、その腕が支えてくれる。
「ヴィクトール様・・・?」
「ああ!アンジェリーク」
やっと声が出た。私の名を呼ぶ声に涙が零れる。
あの哀しみの日からあんなに泣く事を忘れていたのに。
「よく顔を見せてくれ」
「うぅぅ・・・・」
「随分痩せたな・・だが、その瞳の輝きはあの頃のままだ」
このこけた頬が大きな掌に包まれた。哀しく、優しく貴方の瞳が揺れている。
「ずっと、お前を見ていた。長い間、よく頑張ったな。立派だったぞ」
暖かな言葉と共に貴方は私を強く抱き締めた。
同じ・・・
アルカディアで再会したあの日と同じように。
張り詰めていたものが、硝子が割れるように砕けて粉々になって、消えていく。
私は、声を張り上げて泣いた。
愛を求める幼子のように・・ただひたすらに。
「気が済むまで、泣けばいい・・・」
9年分の涙が堰を切った。
貴方の胸を何度も強く叩いて泣きじゃくる。
「今は、すべて忘れろ・・」
それから貴方は何も言わずに私を泣かせてくれた。
優しく髪を撫でて背中を摩って・・・私の名前を囁いて・・
どのくらいそうしていただろう。
私は泣き疲れて貴方の腕の中で眠った。
何もかも忘れて。
やがて目覚めるその時まで、ずっと・・・・


「ここは・・・何処ですか。私の魂はアルフォンシアに預けたはずなのに」
見上げると貴方は静かに微笑んだ。
「見ろよ」
その瞬間世界は変わる。地平線へ続く緑の絨毯と、優しい花々。
そして、大きな木。ここは・・まさか。


「女王よ・・・」
聞き覚えのある声が聞こえる。
「!?あなたは、エルダ?・・いいえ。アルフォンシア」
「今こそ償いを・・どうか」
「償い?」
エキゾチックな青い衣装を纏った長身の青年と、結った黒髪に鈴を鳴らす少女が目の前に浮かんでいた。
「宇宙創世紀の女王陛下、そして隣で守護する者よ・・」
「え・・」
少女の声は、あの日の救いを求める声だった。
私は言葉を求めて貴方を振り返る。
ただ微笑んだままで、背中を押す貴方。
「あのころの私は未熟でした。貴女の力と共に、我が身が衰えていきました。けれど今は、貴女が授けてくださった魂と共に、大きな力とこの姿を得ることが出来ました」
「そして、未来の宇宙を2度も救ってくださった・・ずっとお礼が言えませんでした。ありがとうございます。ささやかですが、どうか私達の力を受け取ってください」
アルフォンシアの言葉に続いて少女が心に語りかけて来る。
私と同じ空気を持ったその少女ば、聖母のような微笑を浮かべ、黄金の翼をはためかせた。
「偉大なる創世紀の女王に感謝と祈りを捧げます。魂の転生を・・」
大きな白い光に包まれて二人は彼方に消えていく。空からは白い羽根が舞い降りて、きらきらと美しい光を放った。
遠い記憶が蘇る。優しく、穏やかに流れる時間。


「ヴィクトール様・・・すべて知っていたんですか・・・」
「ああ・・」
手を取り合い私と貴方は見つめ合った。
「アンジェリーク。約束を果たそう今、ここで」
「はい・・・」
瞳を閉じて静かに交わす誓い。
お願いです。もう二度と私の前からいなくならないで下さい・・・


「ここは変わらないな。いつの時代でも」
「はい。未来の宇宙が平和でよかった。未来の女王の命が無事でよかった・・」
私は貴方の胸でもう一度泣いた。
「・・ハハ。お前らしいな。何一つ変わっていない」
そう言って私の体を抱き上げる。
「アンジェリーク。お前の笑顔を見せてくれ」
私は心からの笑顔を貴方に見せた。
忘れていたあの頃の私に戻るために・・
そして、貴方のために・・
「これからはずっとお前の側にいる。二度と泣かせない。」
「ヴィクトール様・・」
「辛い回り道はもう終わりだ。アンジェリーク・・・愛している。ここからまた始めよう」
私は強く頷いて貴方の肩に手をまわした。
この命が再び尽きてもずっと・・・私も貴方を愛してる・・。だからその頬に答えを返します。


命は巡る。哀しい運命など、きっとありはしない・・
どんなに時が流れても、強い想いは寄り添い離れることはない・・
永遠に・・・


―END―

無理やりな設定で始まったのに、無理やりな設定でハッピーにしてしまいました(^^:
アリオスのこともありますしいいですかねぇ。でもあの女王はどうなったか疑問ですね。
私はやっぱりSP2で幸せになるのが王道だと思っていますので、気分を害されたらすいません。
女王になっても恋も仕事もうまくいったらそれが一番いいんですけどね(;;)
私のとぼい文章力ではシリアスに切なくがうまく表現できませんでした。がーん