Top > Novel > トロワのお話 > 続・WITH YOU

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私とヴィクトール様が再び想いを確かめ合ってから半月。
相変わらず毎日、慌しく育成や学習などに追われているけど、あれからあの方の所へは行っていない。
精神の学習が遅れ気味なのに・・・顔を合わせるのがとっても恥かしいから。
・・・というのはたてまえで、本当は行きたくても行かれないの。
今日こそはと思って学習の予定を組んでも、途中で守護聖様に声を掛けられると、お断りすることが出来なくてデート、なんてことがしょっちゅうで。
今日はランディ様と一緒に日向の丘に・・・昨日はマルセル様と育成の帰りに太陽の公園に。
育成ばかりに根を詰めていた私に、最近、皆様が気を使ってお誘いしてくださることが多くなったの。
勿論それはとても嬉しい。好意を上げるのも育成の良し悪しに関わる大切なことだし、それはわかっているの。
でも私・・・ヴィクトール様と一緒に雪祈祭の時のように何処かにお出かけしたいな。なんてそんなことばかり考えてしまって、育成にも身が入らない始末。
何だか寂しくて辛くて、夜一人で泣いてしまう事もあるの。
幸せなのに・・・何があっても頑張れるって誓ったはずなのに。
これでは女王失格ね。民の事を第一に考えなくてはいけないのに・・・・   
そういえば、あれからヴィクトール様は私のところにお誘いに来てくださらない・・・・
お館はとっても近いのに、すれ違う事もないの。一度遠くでちらっと後姿を見ただけ。
もしかして、私を避けてる?? そんなことってあるかしら・・・ あんなに愛されているって思ったのに。
あ、悪いほうに考えたら駄目。私の悪い癖だっていつかヴィクトール様もおっしゃっていたこと。
よ、よし!考えても仕方ない。明日は朝一に精神の館へ行こう。きっと笑顔で迎えて下さいますよね。


今日も来なかったか・・・。
俺は机の上の書類を片付けながら、ため息をついた。
あれから・・・あいつは俺のところにだけ来ない。
学習がおろそかになれば、せっかく育成に励んでも、幸運度の伸びは上がらないというのに。うーむ。
最初の何日かは気恥ずかしくてなかなかあいつに会いに行かなかったが、ここ毎週、日の曜日には部屋に誘いに行ってみた。だが、いつも出かけた後だったな。
もしや、俺を避けているのか?? そんなことはないよな。あんなに想いを確かめ合ったのに。
そ、それとも酷く泣かせてしまったから怒っているのか?
ああ・・悪いほうに考えないほうがいい。あいつは忙しい身だからな。
その証拠に最近、あいつは守護聖様方と何処かに出かけることが多くなったと聞く。
好意を上げるのも育成に関わってくる大事な事だからな。いちいち気にしていたら身が持たん。
・・・・・いや、気にしてしまうのが本当のところだが。
今日もここ(執務室)にメルが来て、先日アンジェリークとデートして楽しかったなどと、そわそわしながらも自慢げに話していった。
昨日はオスカー様だったか。これがまたご丁寧にも、ものすごい不安材料を残していって下さったな。心配だ。
その前はクラヴィス様だ。珍しいこともあるものだと思い、調子に乗って運動のお誘いをしてみたが、急に顔色を変えられて、睨まれた。そんなに失礼な事を言ったのか俺は。
どうもわからん。ここ最近、やたらと俺のところに客が来る。これでは、予定が狂う。
それに何故話題がアンジェリークのことばかりなんだ?
まあ考えても仕方ないか。皆に慕われるほど敬意も上がっているという事だな。
よし。明日は平日だが、朝一であいつのところへ行ってみるとするか。
疲れているかもしれんが、俺の誘いに笑顔で応えてくれるといいが。


「こ、これはジュリアス様。おはようございます」
「うむ。おはよう。そなたもアンジェリークを誘いに来たのか?」
「はい。いい天気ですし、たまには息抜きもいいかと思いまして」
「そうだな。彼女も随分と頑張っているようであるし。私もそう思い来てみたのだ。
どちらを選ぶかは彼女に決めてもらうとしよう」
自信たっぷりな表情でジュリアスが微笑む。いつもながら、その金ピカな威厳さにヴィクトールは少したじろいだ。


次の日の朝早く、アンジェリークの部屋に出向いたヴィクトールだったが、そこで、こともあろうにジュリアスとはちあわせてしまった。相手が悪いと思ったが、ここで引き下がる気は網等ない。
二人は目を合わせることを避けながらアンジェリークの部屋のドアをノックした。


「!?こんなに早くに誰かいらっしゃったわ」
もしかしたらと思ったアンジェリークは急いでドアを開ける。
「ヴィクトール様・・・」
アンジェリークは愛しい人の姿に顔がほころんだ。しかし、後ろにはジュリアスの姿もあった。
――はち合わせだわ・・・
女王候補時代にはよくあったこと。いつも部屋に入れる前に居留守を使っていたけれど、今日は確認もせずにドアを開けてしまった。
―――どうしたらいいんだろう
アンジェリークは何気に引きつった微笑みを見せる二人の前で困惑していた。
ジュリアスとデートをすれば、光の力が補充できる。しかし、精神の最大値も上げたい
いや正直言えばヴィクトールと・・・


「アンジェリーク?」
「はやく決めてもらえぬか」
怪訝な顔をする二人をじっと見ていたアンジェリークは、結局決められなくて二人の誘いを断ってしまった。
「ごめんなさい、選べません・・」
二人の顔色が一気に変わる。
――あああ・・・怖いです~ ごめんなさいジュリアス様、ヴィクトール様(><)
「女王たるものそんな曖昧な態度では困る、心するように」
「それは責任逃れとも言えるぞ」
返って来た二人の言葉に、アンジェリークの顔はサーと青ざめた。
ジュリアスの言葉も勿論だったが、ヴィクトールのこの言葉には更に、グサッと来た。
それが二人が立ち去った後も、頭の中をぐるぐると回る。
そんなつもりはなかったのに。すごくショックだった。
―――私、お二人を怒らせてしまったわ。どうしよう・・・


「予想外だったな・・・彼女はそなたの誘いを受けると思ったが。アンジェリークは・・・」
「は?」
「あ、いや。なんでもない。引き続き指導の方しっかり頼んだぞ。そなたを頼りにしている」
「は!ジュリアス様」
ジュリアス様は何をおっしゃりたかったのだろう。
ヴィクトールはアンジェリークの館の出口で、ジュリアスの光輝く後ろ姿を深々と敬礼をしながら見送っていた。
彼女が、ジュリアスを選ばずよかったと安堵しながら。
そうでなければ今日一日仕事が手に付かなかっただろう・・


「おっはよーー☆今日はいい夢見ちゃった。ふふ!まあそれはいいとして、早速今日の予定を・・・あれ?どうしたの、アンジェ。何か疲れてるみたい」
「レイチェル・・・おはよう。な、なんでもないの。心配かけてごめんね。えっと今日はチャーリーさんの所とジュリアス様の所、それから・・・・ヴィクトール様の所に行くわ」
「了解。それじぁ、いってらっしゃいーー☆」
いつものレイチェルとの朝のやり取り。彼女の明るい笑顔にはいつも救われている。
でもまだヴィクトールとの仲は内緒だった。
時期をみて話すつもりでいたが噂好きの彼女には話づらくも思っていた。


アンジェリークはまず、チャーリーのところでパンの素を買いに走った。
「いらっしゃ~い♪可愛いお客さん。もう、ほんまもっと来てくれたらめっちゃ嬉しいんやけどな~。そうもいかんのが辛いとこやな~」
今日のチャーリーはテンションが高かった。品物の数も多い。
しかし、買いたいものは決まっていた。あの方に差し上げるための手作りの材料・・
「毎度おおきに~。今度は”俺目的”で来てくれやっしゃ~!おもろい駄洒落披露するやさかいな。一変で元気になること間違いなしやで!」
「はい。嬉しいです♪」
朝のレイチェルといい、何だか彼の明るさで益々元気が沸いたアンジェリークは、ジュリアスのところへ力の補充に向かった。今朝のフォローも兼ねて。


恐る恐るドアをあけると、彼は普段と変わらない態度で迎えてくれた。
「多忙なところ誘いに行ってすまぬな。今日は残念だったが、そなたの時間が取れる時にまた”ゆっくりと”何処かへ出かけるとしよう」
そんな気遣いの言葉まで返ってきた。でも何か含んでいるようなのは気のせい??
「はい。ありがとうございます。ご一緒させてください」
機嫌も悪くないようでホッとしたアンジェリークは言葉を返す。
めったに見れない微笑みまでもらって、力の補充も無事に済ませることが出来た。


さて、次は問題のヴィクトールのところ。
コンコン――
控えめにノックすると「どうぞ」という低い声がした。
「おや、アンジェリークでしたかぁ。あなたもヴィクトールに用事があるのですねぇ。では、私はコレで失礼しますよぉ」
のんびりとした口調でルヴァが突然目の前に現れた。びっくりとしている間に彼はアンジェリークの肩を横切る。
「ああ、アンジェリーク。先日は楽しかったですねぇ。あ、そうそう。宜しかったら今度は一緒に緑茶でも飲みながらのんびりお話でもしませんかぁ。。いい茶葉が手に入ったんですよー」
「あ、はい。ありがとうございます。ルヴァ様」
一瞬ヴィクトールの冷たーい視線を感じアンジェリークはぞくっとしたが、すぐにいつもの暖かな眼差しに戻ったようだ。
「・・・なんだ、お前か。そ、そうか、忙しいんだな。そんな時に誘いに行ったりしてすまんな」
ジュリアスと同じ気遣いの言葉が返ってきて安心したアンジェリークは、学習を申し出た。
ルヴァと何を話していたのか。少し困ったような顔をしていたが、学習を申し出たとたん彼の瞳の色が変わった。
アンジェリークは久しぶりに会ったヴィクトールの顔をちらちらと伺う。
「・・・俺の顔に何かついてるのか?」
「あっ・・いいえ」
「よそ見をしていないで、課題を読め」
「はい・・すみません」
低く響く声。いつも思う。決して学習の時は私情をはさまない。
/仕事の時とそうでない時とのギャプに今でも戸惑うけれど・・・
視線を外して横を向いた顔ははっきりと赤らんで見えた。


「よし、今日はここまでだ。・・遅れ気味だったからな。今の力の補充具合からいって、もう少し学習をしたほうがいいだろう。いつでも待っているぞ」
「はい、有難うございました・・・あの・・・・・・・・・・失礼します」
「ああ、気をつけて帰るんだぞ」
掠れた声で、いつものように掛けてくれる言葉を胸で聞きながらアンジェリークは何も言えずに後ろを向いた。
せっかく何日かぶりに会えたのだから、何か話をしたい・・けれど今日は学習のために来ただけだし・・
そんなことを考えながら、ゆっくり、ゆっくり入り口のドアに向かうと。
「アンジェリーク・・・・部屋まで送っていこう」
背中で躊躇いがちな声がした。思わず嬉しそうな笑みをこぼして振り返るアンジェリークに、ヴィクトールもつられて微笑んだ。


「最近忙しそうだな。よく皆と出掛けるそうじゃないか」
「え?・・・はい」
お互いの屋敷は近い。送るような距離ではないが、少しだけでもいい・・こうして少女と肩を並べていたい。そんなきっかけがヴィクトールは欲しかった。
しかし、ついて出た言葉は、嫉妬心丸出しの嫌味を含んだ冷たい自分の声だった。
ヴィクトールのその声にアンジェリークは俯く。ここ最近遊んでばかりな自分を彼は戒めてるためているのだろうか。それとも?
「あの・・・・あまり根を詰めてはいけないって、皆様がお誘いして下さって、それで・・出かけることが多くなったんです」
「そうか・・それはいいことだが、育成に差し支えない程度にしろよ」
「はい・・・」
優しい少女は皆の好意を無にする事はしないだろう。何だか女王試験のときのようだ。いちいち詮索して、終いには説教をしてしまう。
――こんな事を言って・・朝誘いに行ったのは何処のどいつだ??全く、俺は年頃の娘を持つ父親か!?
彼女の事となると、過剰に過保護になるのと、大人げなくなる自分に一つため息をつくと、ヴィクトールは、右側で俯いたままのアンジェリークを見下ろした。
見えるのはつむじだけ。何故だろうか。あの時はあんなに近くに感じた少女が今は遠い。想いが叶ってそれでいいと思っていたのに、また新しい不安と欲が生まれる。
――少女は女王だ・・・そんな思いには、やはりきりがないのか。いや、そうじゃない。この手を離さないとそう誓ったはずだ。何があっても一生こいつを守ると。だからこれからは二人一緒だ。いつでも・・どんな時でも俺は側にいる。それを伝えたい。今・・
ヴィクトールは、手を繋ごうとソロ~と少女の手に自分の手を近づけた。
「ヴィクトール様・・」
「アンジェリーク・・」
二人同時に言葉を発し、目が合った。触れる寸前だった手をヴィクトールは慌てて引っ込める。
――ただ送って頂いてるだけなのに、私、また何を期待しているのかな?
アンジェリークは強張った横顔を恐る恐る見上げた。本当はこのままずっとこうしていたい・・時間が止まればいいのに・・
せっかく二人一緒にいられるんだから・・・だから今度こそもっと一緒にいたい・・
「あのな・・アンジェリーク、よかったら今度の日の曜日―――」


「よお!アンジェリーク。やっと来たのかよ」
「ゼフェル様!?」
「ゼフェル様!?」
「な、何だよ。二人してでっけー声出すんじゃねー!」
アンジェリークの館の前まで二人はあっという間に歩いてきたようだ。
いきなり現れたゼフェルに二人は驚いて思わず大きな声を出してしまった。しかも肝心なところだったので、尚更だ。
「そろそろ帰ってくる頃だと思ってよ。この間目覚し時計が壊れたって言ってただろ。ったく、トロくせーのが益々トロくなったら寛大なオレ様もいいかげんあきれるからな。」
「あの・・わざわざ?」
「ああ。わざわざオレ様が直してやるって言ってんだ!早くオメーの部屋、行くぜ。 ・・・・何か文句あっか、おっさん」
「い、いいえ、ゼフェル様、そのよなことは・・。良かったな、アンジェリーク。・・・じゃあ、またな」
言葉使いは乱暴だが、根は素直で優しいこの少年。あまり話す機会はないのだが、それでもヴィクトールは守護聖としての彼を評価していた。
――朝寝坊しては俺が・・いや、彼女自身が困ることになるからな。ここは大人しく去るか・・チャンスはまたあるさ。
「あ、あの。送って頂いてありがとうございました」
小さく会釈してアンジェリークは大きな背中を見送る。後ろ向きのままでヴィクトールは一つ手を上げた。


その様子をふーんといった様子で見ていたゼフェルがアンジェリークに顔を近づけてボソリと言ってきた。
「あいつとどっか行ってたのかよ。おい、何か変な事されたんじゃねえか?」
「えぇえぇ???」
「ったく、冗談に決まってんだろ。すぐ真に受けやがる。おかしいったらねえぜ」
ゼフェルのいきなりの問いにすっとんきょうな声を出してしまったアンジェリーク。実はもうそういう仲だったりするのでかなり焦ってしまった。
だが、ケケケと笑う彼を見て安心した。冗談で良かったと――


何だか今日はいつも以上に色んな気を遣ったせいで、疲れた。
けれど、皆の優しい気持ちが嬉しかった。(おめでたい性格)
アンジェリークはゼフェルに直してもらった目覚し時計を持ち、ベットに座る。
先日飛び起きた時、床に強く落としてしまい、急に動かなくなったのだ。それで、すぐにゼフェルのところへ泣きついて行ったが、運悪く機嫌が最悪のときに行ってしまい、つき返されてしまったのだ。
でも、彼はちゃんと覚えていてくれた。本当にみんな優しい人ばかりで嬉しいとアンジェリークは思った。


これは大切な時計。聖地に来る時に新調したものだった。女王候補時代、いつかヴィクトールが部屋に来た時「珍しいものだな」と言って手にとった、アンティークなデザインのこの時計。
あの日から、アンジェリークはヴィクトールに恋をしてきた。
繰り返された素敵な出逢いと哀しい別れ・・そして想い出。
女王試験のときから、あの辛い旅の日々も、そして今もずっと、この時計はそんな時間を刻み続けている。そして、ヴィクトールと自分との密やかな時間も・・
再会するまでは、この秒針の音を聞くごとにヴィクトールとの時間も距離も大きくなるようで、辛くて眠れなかった。けれど、今は。とても穏やかで優しい音に聞こえる。
同じ時の中にいられるから。


今日、最後に彼が言いかけた言葉・・。「今度の日の曜日――」それは、自分が何よりも今、望んでいた言葉だった。
――あれってデートのお誘ですよね。そう思ってもいいのかな。今日は木の曜日だから・・・後二日ね。やだ、何だか今からドキドキしてきちゃった。
昨日までは会えない切なさで一杯だったけれど、彼に会えた途端心が元気になった。また明日も頑張れると思った。
現金な自分に可笑しくなる。
――でも恋するのってそういうことだよね。初めての恋は実らないってよく言うけれど、私とヴィクトール様はもう、そうじゃないよね。女王が恋をしてはいけないなんて法則は何処にもないもの・・・
アンジェリークは、その夜も雪祈際で買ってもらった青緑のペンダントを握り締めながら眠りについた。
初めての日の曜日のデートを夢見ながら・・・

ワンパターンで中途半端です。厳密に言うと裏のお話の続きでしょうか(汗)
更に続きが書ければいいのですが(^^;
デートにこぎつけてラブラブになるまでは!
ジュリ様、ゼー様ごめん。中途半端で終わってて。引き立て役ですんで。
皆の行動は気使いではなく探りです!(><)八方美人コレットは大変