2.30男の浪漫
重いカーテンの隙間からは柔らかな春の光が差し込み、小鳥たちの楽しげな歌声が心地よく響く。
腕の中には、ほのかに花の香りをさせた愛しい妻が眠っている。
夫は愛らしい寝顔に目を細め、目覚めるまで静かに待つ。昨夜の愛の営みを思い出しながら・・・
そして妻が目を開けた時、甘い口づけと共に告げる。「おはよう・・」と。そのまま二人は再び愛し合う・・
そんな朝の幸せなひととき―――
朴念仁・・・もとい堅物男(同じじゃ!)は夢を見ていた。自分でも気づかずにいる30男の密やかな浪漫。
ヴィクトールは珍しく、いつもの時間になっても目覚めずにいた。
それには訳がある。日頃の疲れと昨日の式の慌しさはもちろん彼にとって問題にはならない。
昨夜、いわゆる”初夜”は、結局あのまま事なきを得たのだが――
腕の中に抱きしめたときの優しい温もり。華奢だが柔らかな身体の感触。肌の滑らかさ、優しい花の香り。さらさらの髪。可愛い唇。挙げたらきりがない程アンジェリークは魅力的だった。
そんな彼女に対し、己の理性をギリギリの所でなんとか押しとどめていたがゆえ、ヴィクトールはいつまでも寝付けなかったのである。―――あたりまえだ。
カタカタ・・トントン・・
どこからともなく聞こえる小さな音でようやく目が覚めたヴィクトールは、腕の中で眠っているはずの妻がいないことに気づき慌てた。夢うつつだったため、はたから見れば何とも滑稽な様子である。
顔を両手で叩きながら寝室のドアを開けると、いい匂いにハッとした。
「これは・・」
リビングからダイニングに向かうと、白いエプロン姿のアンジェリークがパタパタと駆け寄ってきた。
「おはようございます、ヴィクトール様♪」
「あ、ああ・・おはよう」
ニッコリとした微笑みのあまりの可憐さに鋼鉄?の理性も吹き飛んでしまうほどだった。もし、昨夜抱いていたら、その場で押し倒していたかもしれない。白いエプロンと白い下着は男の浪漫をくすぐるのである。
「あのね・・・。 ヴィクトール様。こっちに来てください」
はにかむ彼女に手を引っ張られたその先には、質素だが温かそうな食事が並んでいた。
「これは・・・お前が作ったのか?」
他に誰が作るのだと突っ込みたくなるほど当たり前のことを聞くヴィクトール。
「はい。 あの・・でも、よく眠ってらしたから、起こしてはいけないと思って・・・勝手にお台所使わせて頂いちゃいましたけど・・・」
「ああ・・いいよ。執事に頼んで食料を幾日分か買ってもらってあったからな。自由にするといいさ」
朝飯の事まで気が回らなかったヴィクトールは、まさかアンジェリークの手料理にありつけるとは考えもしなかっただけに、嬉しさ倍増だった。
初めて迎える朝・・・ベットの中でまどろむのもいいが、愛情こもった朝飯も悪くないな・・・などと思ったあたり、男のロマンなのだが・・・そんなことはヴィクトールは気がつかない。
「うまそうだ。そういえばお前の手料理は初めてだったな。どれ」
「ヴィクトール様は朝はご飯党なんですよね。お味噌汁、お口に合うかわからないですけど・・・」
「・・・・・・」
「あ・・・あの。やっぱりお口に合わなかったですか?」
何も言わずに黙々と食べる夫を見てアンジェリークは不安になった。
「!!あ・・いや、すまん。あまりに美味くてな。つい夢中で言うのを忘れていた。お前の料理は優しい味がして本当に美味いぞ。この味噌汁もだが、卵焼きが特にな。・・・・・ありがとう、アンジェリーク。お前は料理も上手いんだな」
これくらいしか取り柄がないですからと、真っ赤になる彼女に、そんなことはないだろと、ヴィクトールは首を振る。
愛情のこもった料理は本当に美味だった。こんな手料理をいつも食べられるのだと思うと食欲も増す。
気がづくと、味噌汁とどんぶりご飯は既に空で、おかずは半分以上――いや、ほとんどなくなっていた。
「はぁ~。ヴィクトール様に喜んで頂けてよかったです。でも作るの少なかったですね・・・」
「わ!すまん。これじゃ、お前の分がないな・・・ハハハ」 人の分まで食わないでちょ
苦笑いにつられてアンジェリークも笑う。
二人の幸せな時間はまだ始まったばかり・・・なのだが。まだ始まっていない事がある。
アンジェリークとて平気でいた訳ではない。こうしている今も昨夜の事を思っていた。
心の準備が出来ていなかった自分の気持ちに気づいてくれた事、大切にしたいと言ってくれた事、とても嬉しかった。
そんなヴィクトールだから愛し、支え合いながら共にいたいと思ったのだから。
けれど、抱きしめられたとき感じた体の奥に芽生えた何か。十分幸せなはずなのに、我侭な自分に気がついた。
もっと抱きしめて欲しい。側にきて欲しい。キスして欲しい。もっとヴィクトール様を知りたい、感じたい。そんな風に思った。
好奇心などではもちろんない。愛しているからなのだ。
今夜はきっと・・・アンジェリークはそんな予感がしたのだが・・・
当の堅物男はまた違う事を考えていた―――
食事と前後したが、ヴィクトールはシャワーを浴び、軍服に着替えた。
真新しいデザインの将官服に身を包んだ彼は、べた惚れな可愛い若妻を持つとは到底思えないほどの貫禄と剛健さを見せていた。
仕事に出かける夫をアンジェリークはガレージまで見送りに出た。
「なるべく早く帰るから・・・」
少し照れてヴィクトールが告げる。
「はい・・・お料理作って待っています。気をつけて下さいね」
「ああ。料理、また楽しみにしているぞ」
そう言って車に乗り込み、はにかむ妻に手を振った。ここはどこの新婚夫婦とも同じ、何とも微笑ましい光景だった。
でも何か足りない――
車が庭を抜け門を出ようとした時、ドアが開いた。ヴィクトールが走って戻ってくる。
「ヴィクトール様? どうなさったんですか?」
「・・忘れ物だ」
驚いた顔をしていたアンジェリークの腰にそっと手を置き、額に口づけた。
更に驚き真っ赤になる様子をヴィクトールは楽しげに見つめる。自分でも少しくさかったと思ったが、それはそれ (・・?)
「・・じゃあな」
振り返り走り出そうとしたが、上着を小さな手が掴んでいた。
「・・・おでこじゃ嫌です・・」
消え入りそうな声だが、精一杯勇気を出してアンジェリークはねだった。
あまりの可愛いい我侭に、いくら鋼鉄な理性を持っていたとしても、それを奪うには十分すぎた。
それにこんな必死な申し出を蔑ろにするヴィクトールではない。
「アンジェ・・・・」
ヴィクトールは強引に抱き寄せ、唇を強く押し付けた。もちろん、優しいキスしか知らないアンジェリークは体を硬く強張らせる。
そんな仕草に、名残惜しげに唇を離したが、トロンと見上げる瞳に、愛おしさが溢れ出て止まらなくなってしまった。
今度は、優しく・・・今までのように触れるだけの口づけを何度も繰り返す。
その間、手袋をはめた手は襟足の髪をかき上げ、敏感なうなじの部分を指でそっと撫でた。
「あ・・・・ぃ・・・」
首筋に唇を落し、そこを強く吸うと、甘味な行為に耐えていた声が漏れた。
「痛かったか?」
耳元で囁く低い声にアンジェリークはビクリと震える。顔はシュウシュウと蒸気が出るほど真っ赤だったに違いない。
白い肌に赤い印が浮かび上がった。明るい日差しの下、少し濡れたそこが何とも艶かしく光って見える。
また口づけを続ける。
「あ・・・ヴィクトール・・・様。遅刻・・・してしまいます」
「そうだな・・・だが、もう少し・・・お前を離したくない」
使用人が来たら、こんな風に庭の真ん中でラブシーンは出来ないとばかりに、抱きしめる腕に力を込めた。
いちゃいちゃと・・もう勝手にしてーーーちくしょーーー!!!!! と叫んでみた、筆者だったり・・・トホホ
「お前を大切にしたいのに・・・駄目だな、俺は。 こうして触れていると、なんというか・・・その、お前を抱きたい衝動を抑えられそうにない・・・・」
抱きしめた腕を緩め、躊躇うように告げるヴィクトールにアンジェリークは首を振る。
「ヴィクトール様は、とっても私を大切にして下さってます。今も、こんなに・・・私、幸せです。
だから・・・もう大丈夫ですから・・・」
アンジェリークは、はっきりと告げた。
「わかった・・・ ありがとう」
それだけ言うとヴィクトールは眉を寄せ微かに笑い、アンジェリークの頭をくしゃっと撫でた。そして軍への道を急いだ。
その時、胸を締め付けるような甘い切なさがお互いの心を満たしていた。
**
「閣下、おはようございます。」
「うむ、おはよう」
廊下で会う部下達への挨拶もそぞろ。ヴィクトールには珍しく、”一分も”遅れて自分の執務室に着いたのだった。
たまった書類を片付け、会議、部下達への講義、武術指導と、相変わらずの激務をこなしていたが、頭の片隅では、ある二つのジレンマに悩まされていた。とことん、堅い男なのである。
一息ついて、たまに吸うタバコに火をつける。その時考えがまとまった。 (笑)
いかに怖がらせず事に運ぶか、それには下準備が大事だな。
・・・まあ、昨夜も今朝もその第一歩だった訳だが。などと、渋い顔で頷く様は、はたから見れは正に質実剛健に見えるのだが・・・
「閣下、何だか楽しそうですね。お顔が赤いですよ。そういえば・・・このたびは本当におめでとうございました。(にやり)」
と、書類を持ってきた佐官クラスの部下に意味深な含み笑いをされ、今日ばかりは説得力がなかった。
「ああ・・ありがとう」
とりあえず礼を言ったが ――くそう・・いい度胸だな。後で覚えてろよ―― と思ったかは知らない。
ヴィクトールの考えついたこと、それは昨夜アンジェリークをからかった要因、キーワードは”お風呂”だった。まさに男の浪漫? そこにこだわるのか?
昨日の今日でそれはまた逆効果なのでは?と思うのだが・・・本人は大真面目だ。いや、根に持っているに違いない。
**
一方、アンジェリークはというと・・・
慣れないキッチンで、片付けを済ませると、昨日決めた買い物に行く準備をしていた。
確か近くにバス停があったはず。町まで遠いし、出掛けたいなどと言ったら、ヴィクトールが心配するだろうと黙っていただけに少し気が引けたが、乙女心を成就?させるには行くしかない。 ・・・まどろっこしい
そうこうしていると、ピンポーンと呼び鈴が鳴り、「宅配便デース」という声が聞こえた。
慌てて玄関に行くと、大きな荷物が届いていた。
宛名を見ると、自分宛て。差出人は・・・ 「ロザリア様?!!」
二階までは運びきれないので、その場で開き、一つ一つ品物を出した。
「これ・・・うそ・・守護聖様たちからの贈り物だわ。」
結婚祝のカードも一緒で、新宇宙の女王レイチェルからの手紙も入っていた。
それぞれの方からの素敵な贈り物に感激するアンジェリークだったが、(詳しく書くと長くなるので割愛;;)
やはりありがたかったのは夢の守護聖オリヴィエ様からの品物。
それは下着とローブのセット。白に水色の控えめなレースのついたとても清楚なものだった。
それから、陛下とロザリア様からはお揃いのシンプルなパジャマ。
これで買い物に行く理由もなくなった訳だが、もう一つの品物がアンジェリークを悩ませた。
レイチェルからのものだ。例え離れていても今でも親友。そんな彼女からの手紙は嬉しかったが、内容に泣いた。
レイチェルからのプレゼントは、なんでも、地の守護聖ルヴァ様と、今は新宇宙の研究員主任エルンストとさんとで共同厳選された?(ええー?)・・なんと!S●X HOW TO本だった。(彼女って16歳よね・・)
な・・な、何でこんなの。私にくれるの?よくわからない・・・(;;)
でも、気になって、少しちらっと開いてみた・・すぐにバタンとページを閉めた。
まだ何にも知らないアンジェリークなのに、あまりに刺激的な写真を見てしまってショックだったに違いない。
こんなのもらって、どうやって誤魔化せばいいのだろうか・・・仕方がないので、自分の下着の置いてあるチェストの奥に仕舞い込んだ。
後にヴィクトールに見つかって大変な事に・・・
またそのおかげで男の浪漫が炸裂したりもするのだが?それはまだずーと先の話である。
時はあっという間に夕方―――
そろそろだと、夕食の準備を始めたアンジェリークは落ち着かない胸に手を当てた。
ヴィクトールの好物の豆を使った料理にも挑戦し、どうやら上手く出来上がったようなので、ほっと一息つていたところに、下で車のエンジンの音が聞こえた。
急いで下の玄関口まで走って迎えに行く。
「お、おかえりなさい。ヴィクトール様」
「ただいま。アンジェリーク」
お互い、相手の笑顔を見ると一人で色々考えていた事など、どうでもいいような気になってしまう。
ヴィクトールは白いエプロンにお玉を持った可愛い妻を抱き寄せ、ただいまのキスをした。
すぐに手袋を取ると二人は手を繋いで部屋まで歩いた。
30男のロマンと可憐な少女の乙女心はどこまでも続く・・・・といいなぁ
――続く?――
なんかとってもかっこ悪いですね。ヴィク様(;^_^A
一から十まで新婚ものを書くと、至るまでかなり要すると思います
本当に申し訳ないです_(._.)_私謝ってばかりですー。
ええ!これからも。管理人煩悩オンリーのふざけた創作になるかもです(>.<)
平にお許しを・・ってやっぱり駄目ですよね。
一生懸命幸せを願って書いているのは認めてくださると嬉しいのですが・・・