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キス2
恋人同士になった二人は、毎週、日の曜日には、密かに逢瀬を重ねていた。
柔らかく微笑む天使のような少女。
ヴィクトールは幸せな気分で、そんなアンジェリークを見つめる。
しかし、夢のような時間は、いつも、瞬く間に過ぎてしまうもの。
何時しか空は緋色に染まり、冷たい風が森の湖を吹き抜けた。
そうすることが当たり前になったかのように、
ヴィクトールはアンジェリークに上着を掛ける。
そっと胸に引き寄せれば、見上げてくる瞳が寂しそうに揺れて、
別れの時間が近づいたことに、ヴィクトールはやっと気づくのだった。
「ここへ来るのは、もう最後だな・・・」
そう呟けば、少女は思いつめたように、きゅっと胸の前で掌を結んだ。
ヴィクトールはその手に、そっと自分の手を重ねる。
アンジェリークが目を伏せると、一筋の雫が頬を伝わり、落ちていった。
夕日に光るその涙。今まで見たどんなものよりも、綺麗で・・・
ヴィクトールは、吸い寄せられるように唇を寄せた。
柔らかな少女の頬が赤く染まる。
愛おしさが溢れて、ヴィクトールは言葉より先に、アンジェリークの唇を塞いでいた。
甘い酔いに似た感触。忘れていた何かを思い出す。
「・・好きだ・・」
伝えたくて一瞬だけ唇を離す。
小さな頬を両手で包み、もう一度。ヴィクトールは、想いを込めて重ね合わせた。
それは、二人初めてのキス。
触れるだけの優しい口付けだった。
肩を寄せ合い、二人は帰り道を歩いた。
触れ合った余韻がまだ唇に熱い。
アンジェリークは、指で自分の唇を辿る。
その仕草に、ヴィクトールは切なげに目を細めた。
「このままお前を帰さない・・」
「はい・・・」
すぐに返る答えに苦笑して、ヴィクトールはアンジェリークを抱きしめる。
本当に、このまま少女を何処かに攫ってしまいたい。
ヴィクトールはそんな衝動に駆られるのだった。
学芸館まで戻り、ヴィクトールは初めて私室に少女を呼んだ。
もてなせるものといったら、苦いコーヒーしかない。
二人は寄り添い、それに口を付けることもなく、
ただ、カップから立ち上る湯気を見つめていた。
言葉のないまま、時は過ぎる。
やがて湯気は消えて、辺りは薄闇に包まれた。
「もう、こんな時間か・・」
腰を上げるヴィクトールに、アンジェリークはしがみついた。
「・・・茶を入れ直すだけだ。何処にも行かん」
それでも離れたくないらしく、服の裾を掴んで来る。
「・・俺は、お前を離すつもりはない。これからもずっとお前の側にいる」
その言葉に、少女がふわりと笑う。
ヴィクトールは、その消えてしまいそうな淡い微笑みに、一瞬で魅入られてしまった。
服の裾を掴んでいた手は、いつしかヴィクトールの肩の上に乗っていた。
「大好きです・・・」
アンジェリークが懸命に告げる。
か細く震える声に、ヴィクトールは少女から口付けられたのことに、
その時、ようやく気が付いた。
羽のように触れた少女の口付け。もう一度その感触を確かめたくて、
「・・・もう一度、してくれ」
そう告げる。
いつもは、見下ろし見上げる互いの顔が側にある。
膝を立てる小さな少女の体。
ヴィクトールは、そっと腰を支えて、引き寄せた。
ちゅっと触れる。
顔が綻んでしまうほど、可愛いキスをアンジェリークはくれた。
「お前は、俺が帰さないと言った意味を、この部屋に呼んだ意味をわかっているのか?」
「・・・・」
ヴィクトールは、思わずからかいたくて、そんなことを聞いていた。
案の定、真っ赤になり俯く少女に、ため息をつく。
けれど。
「・・・私・・もう、子供ではありません・・・」
アンジェリークは訴える。
それ以上のキスを知らないのだろう。ただ、唇を押し当ててくる。
反ってそれが可愛くて、ヴィクトールは雄の欲情に支配されそうになるのを必死に抑えた。
「そうか。それなら・・」
本当のキスを教えるように・・・
そのまま、ヴィクトールは口付けを続けた。
少女の輪郭を舌でなぞる。
下唇を挟んで、何度も啄ばむ。
開いた唇から舌を差し入れれば、驚いたようにアンジェリークの体は震えた。
小さな口内をヴィクトールの舌が弄る。
すぐに見つけた薄い舌。ヴィクトールは、怖がらせないように、ゆっくりゆっくり絡ませる。
アンジェリークの蜜は甘く、蕩けるほどにヴィクトールを酔わせた。
「ん・・・ふっ・・・」
漏れる吐息も逃したくない。
自分の口内へと少女の舌を誘う。
絡ませては戻り、貪るように這いめぐらせる。
どちらのものともわからない蜜が、二人の唇の端から流れていく。
静寂の中に、湿った音だけが響いて、何時しかヴィクトールの理性も飛んでいた。
ヴィクトールは、アンジェリークの体を抱き上げた。
少女の胸の鼓動に気づかぬふりで、奥の寝室へと向かう。
そして・・・少女は愛しい人の腕の中で、大人になった。
「お前はもう、俺だけのものだ・・・ずっと離さない」
日の曜日はもう来ない。
逢瀬の時はもういらない。
これからは、いつでもキスを出来る距離に二人は居るのだから。
――END――
*イメージイラスト
お題の「キス」は2パターン仕上がりましたが、こちらはおまけです。
これ、イラストだけ先に出来ちゃったんです。
SP2の二人でキス絵をどうしても描きたくなってしまって。
しかし、絵と文が合っていない気が。絵も文も、思いっきり表仕様ですみません。