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前置きがとても長いお話になっています(^^;

1. 2.


1.

「今度の日曜。よかったら何処かに出かけないか?」
久しぶりのデートの誘いに、アンジェリークは嬉しさで頬を真っ赤に染めた。
デートに誘うとき、ヴィクトールはわざわざアンジェリークの家に出向いて、約束を取り付けている。
仕事柄、夜遅くというのが珍しくないため、気兼ねをしながら彼女を家の外に連れ出す。
玄関先、二人はほんの少しの言葉を交わした。
「お誘い嬉しいです。楽しみにしていますね」
「そうか。・・・よかった」
ヴィクトールは照れながら返事をすると、恥ずかしそうに俯いたアンジェリークの頭を撫でて、額にかかる前髪に唇を落とした。
「それじゃあ、お休み。・・・またな」
「はい・・・お休みなさい。お気をつけて・・・」
仕事で疲れているのに申し訳ないと思いつつ、アンジェリークは熱くなった額に余韻を感じながら、幸せを噛み締めていた。


彼の車のテールランプを見送るのは、もう何度目だろう。
ヴィクトールは、デートの誘いのないときも、少女に寂しい思いをさせないように、そして何よりも、愛しい少女の顔を見たくて、こうして会いに来ている。
聖地から降りて一年以上の時が過ぎ、二人は恋人同士のまま今に至っているわけだが、特に何か発展があったわけではなかった。
勿論、結婚前提での付き合いをしている。
しかしアンジェリークが二十歳になるまではと、お互いにそれぞれ別の生活を送っていた。
ヴィクトールが堅い人間である故に、まるで小鳥を庇護するかのように、彼はアンジェリークのことを大切に大切にしていたのだ。


そんな日々に変化が訪れたのは、この日のデートがきっかけだった。
いつものように迎えに来たヴィクトールは、少し感じが違っていた。
抑え気味に流した髪。明るめのロゴの入った、半袖のポロシャツにジーンズという、カジュアルな出で立ち。
軍服に見慣れてしまっているせいなのか、いつもよりずっと若く見えた。
これが本来の素のヴィクトールなのだろうか・・・。そう思うとアンジェリークの胸は自然と躍る。
「よう、アンジェ。おはよう」
「・・お、おはようございます」
アンジェリークはいつも以上にドキドキしながら、彼の車に乗り込んだ。
静かに車が走り出す。
窓の外は、梅雨明けの爽やかな夏の空が広がっている。
ヴィクトールは、海までドライブをしようと提案した。


ハンドルを握るヴィクトールに、アンジェリークはちらちらと視線を向けた。
逞しい腕にある傷跡と、意外と柔らかそうに風になびく髪を交互に見つめる。
その視線に気づいたのか、ヴィクトールは少し照れくさそうにした。
「傷跡が残ってからは、ほとんど着る機会がなくてな。少し若いと思ったんだが、・・・やはり、おかしいか?」
「いいえ!そんなことないです。とても素敵です!」
慌ててムキになるアンジェリークに、ヴィクトールは苦笑する。
「はは・・・それを聞いて安心した。素直にとっておくことにするよ。・・・ありがとう」
大人の余裕なのか、それとも照れ隠しなのか。
ヴィクトールはアンジェリークの頭を軽くポンっと叩く。
ふざけて、何度もポンポンとしようとするので、アンジェリークは恥ずかしくなり、座席にしがみついた。
ふとリアシート側に目を向けると、麻のジャケットがハンガーにかかって揺れていた。


彼が、手以外の肌を見せたのは、初めてだった。
自分の前でも、いつも長袖のシャツにきっちりとした格好で。でも今日は違う。
何か意味があるのかと思ってしまうのは、考えすぎかもしれない。
けれど、淡い期待がやがてアンジェリークの胸を一杯にした。


「わ~。ヴィクトール様、海です!きれい~」
海が見えてきた。キラキラと光る夏の海は二人の目に眩しく映る。
開放的な景色が、普段の大人しいアンジェリークを変えてくれるような気がして、ヴィクトールは、はしゃぐ少女を見守りながら、胸の奥にいつもと違う何かを感じていた。


人のいない堤防沿いに車を停める。
アンジェリークの手作りのお弁当をご馳走になった後は、海岸沿いを歩くことにした。
さりげなく手を繋ぐのも一苦労で、ヴィクトールは汗をかいていた。
「少し暑いな。お前は平気・・・そうだな」
汗ばむ掌は暑さのせいだと、言い訳をしてみる。
すると、くすりと笑ってアンジェリークは二人の掌の間にハンカチを挟んでおどけてみせた。
相変わらずの可愛い気遣いに、ヴィクトールは自然と優しい微笑みを、少女に向けていた。


本当なら、この時期、海といえば海水浴。けれど、主星の海では無理な話・・・。
いつか、人目を気にしなくてもいい、南国の海に連れて行ってやりたい。
今の二人の話。未来の二人のこと。話すべきことは沢山あるのに、言葉が足りないまま。
正直、こんな捻りのないデートばかりではつまらないのではないかと心配になる。
けれど、毎回頭を悩ましつつも、アンジェリークの幸せそうな笑顔に救われていた。
彼女と会っていると、心が落ち着く。
一緒に暮らしても、きっと今以上に彼女を幸せにしたいと思うだろう。
だが、まだ今はアンジェリークが側にいてくれればそれで十分幸せだとヴィクトールは思っていた。
彼女を縛りたくない。
一度手に入れたら、放したくなくなるだろうから。
アンジェリークに出会うまで、自分はこんなに独占欲が強い男だとは思っていなかった。
だから些細なきっかけで、抑えていた激情が、まだ幼い少女の心を傷つけてしまいそうで・・・。
ただ、それが怖かったのだ。


「アンジェリーク。喉が渇かないか?何か飲み物を買ってくるから、ここで待っていてくれ」
「あ、はい。私も一緒に・・」
「いや、歩き疲れただろ。お前はここにいろ」
「はい・・・」
随分暑くなってきた午後。
ちょうど喉も乾いたので、ヴィクトールは単身、近くの自動販売機まで飲み物を買いに出た。
彼を待つ間、アンジェリークは長い間繋いでいて火照ってどうしようもなかった手を、鼓動の治まらない胸に当てた。
波打ち際まで行き、海水に手を浸す。冷たさが、穏やかにアンジェリークの熱を冷ました。
今日は少しでも長く一緒にいられたらいいのに・・・
そんなことを思いながら、遠くに見える彼の姿を目で追いかける。
その時。犬を連れた一人の男性が、アンジェリークに声をかけて来た。


「こんにちは。いい天気ですね」
「こんにちは」
ただの挨拶のようだったので、アンジェリークもすぐに挨拶を返す。
連れていた子犬の可愛さに、アンジェリークはじゃれついて来たその子犬を、よしよしと撫でた。
「可愛いですね」
「ありがとう」
穏やかな雰囲気のその青年はにっこり笑い、一言二言話を始めた。


「失礼ですが、貴女はお一人で海に?」
「いいえ・・・その、か・・・か・・・彼と来ました(///」
「そうですか。素敵な彼なんでしょうね」
"彼"と言うだけで、真っ赤になっている姿に、青年は少し珍しそうにアンジェリークを見つめる。
それから・・・
ヴィクトールが戻るまで、アンジェリークはその男性からこの辺りの土地の話を聞いていた。
その様子に気づいたヴィクトールが大急ぎで戻ったのは言うまでもなく・・・
けれど、普通のナンパであった方がよかったのかもしれない。
それならアンジェリークを守ることも、怒りをぶつけることも出来ただろうに。とんだ肩すかしだ。
いや、何も無い方がいいに決まっている・・・いったい何を考えているのか。
ヴィクトールは、眉間に寄ったしわを指で押さえ、平静を保つ振りをした。


「この辺りの海は特に日没時が綺麗なんです。それでは、良い一日を」
その青年はヴィクトールを前に、流石に驚いたように目を見開いていたが、軽く会釈をすると、その場を去って行った。
やましい事は何も無い、地元の人間だという事を強調したいかのようにして・・・
無理もない。可憐な少女の"彼氏"が、こんな歳の離れた強面の男だとは思いもよらなかったのだろう。
年の頃なら二十代前半。すらりと細い好青年だった。
ああいう奴が、アンジェリークにはお似合いなのかもしれない。
何だかそれを見せつられた気がする。
今日に限って若作りして、彼女に合わせようとした自分が滑稽だ。
若くハンサムな奴には到底敵わないのだから。
そう思ったら、行き場のない憤りがヴィクトールの胸の中に嫉妬として湧き上がっていた。


「今のは誰だったんだ?」
「えっと・・犬のお散歩をしながら、この辺りの海岸のごみ拾いをしているそうです」
「・・・そうか。若いのに偉い奴もいたもんだな。ナンパだと思って心配したんだが、そうでなくてよかった・・」
「そんな・・ナンパだなんて」
「だが、若い男は下心のある奴がほとんどだ。気をつけろよ」
「はい・・・」


その後、ヴィクトールは明らかに不機嫌になった。
たまたま通りかかった人間が、アンジェリークと話をしていた。ただそれだけのことだと思えば何でもないはずだ。
そう言い聞かせてみても、心にかかる靄は消えない。
見知らぬ男と話をしていたアンジェリーク。本来の彼女なら、少なくとも躊躇う素振りを見せるはずが、思い返してみれば普通に接し、しかも楽しそうに?話をしていた。(そう見えていただけ)
もしかして、アンジェリークは自分が思っているよりもずっと大人になっているのかもしれない。
純粋無垢。今もそれがアンジェリークの魅力の一つだ。
だが、もしも彼女が生娘(処女)でなかったとしたら・・・・
ショックで狂ってしまうだろう。そんなとんでもない所まで考えを飛躍させしまう自分に、ヴィクトールは呆れるしかなかった。
こんな心の狭さで、彼女を守りたいなどと、大口を叩けるの立場なのか・・・
肝心なときに側にいてやれない。守ってやれない。それが事実なのに。


「ヴィクトール様・・・あの・・・ごちそうさまでした」
空になった缶ジュースをアンジェリークの手から取り、ゴミ箱に持って行く。
ヴィクトールは気づいたら、力任せに缶を凹ませていた。
「そろそろ、帰るか」
綺麗だという、夕焼けの海を見ることなく、早々に切り上げる。
そんな調子だったが、ヴィクトールはさっきと同じようにアンジェリークと手を繋ぎ、車まで戻って来た。
けれど驚くほど握られる力が強くて、アンジェリークは手だけではなく、心も痛めていた。
いつも紳士で優しいヴィクトールが、あからさまに機嫌を悪くすることなど、今までなかったのだから。
どうしていいかわからず、かといってなんと言っていいかもわからず、アンジェリークは、彼がエンジンをかけようとする前に、とにかく謝ろうと思った。
「ヴィクトール様・・・あの・・ごめんなさい。私・・ヴィクトール様のご機嫌を・・・」
「・・・・ちゃんとシートベルトをしろよ」
「あっ・・・はい」
話をそらされて、車は走り出してしまった。本当ならデートの余韻を楽しむはずの帰り道。
重々しい空気の中、アンジェリークは何度となくヴィクトールの横顔を窺った。
強い日差しに、赤く反射する下りた前髪。
眩しくて、しかめた眉も、鋭い金の瞳もよく見えなかったが、確実に機嫌が悪いままだ。
きっと軽率な行動と言動を、彼は怒っているに違いない。
嫉妬と、自責だとは気づかないアンジェリークは、彼が何か言ってくれるまで、じっと待つしかなかった。


二人は気まずい雰囲気のまま、街まで帰ってきた。
アンジェリークの家と、ヴィクトールの住む軍の官舎とでは、彼の部屋の方がここから近い。
デートの帰り、時々部屋に呼んでくれるヴィクトール。
けれど、今日は無理だろうか。
こんな状態のときに帰りたくないと言ったら、怒られそうで。でも、あの交差点をそのまま行ってしまったら・・・家に着いてしまう。
赤信号で止まった時に、アンジェリークは切羽詰って、言葉を発していた。
「私・・わたし・・・ヴィクトール様のご機嫌が直るまで、帰りません!」
堪えても、ポロポロと涙が零れる。
「あ・・アンジェリーク・・・?」
ようやくこちらを向いてくれたヴィクトールは、驚いたような顔でアンジェリークを見ていた。


2.

プッァーープァーーーー
後ろでけたたましくクラクションが鳴った。追い越していく何台かの車。
ハッとなりヴィクトールは慌ててギアを入れ直すと、その道を左折し、車の通りの少ないと思われる路地へと入った。
「アンジェ・・その・・・泣くな」
一旦車を停めて、なだめようとしたが、商店街に来てしまったのか、人通りがやけに多い。
「と、とりあえず。ここじゃ話は出来ないから。俺の部屋に来るか?」
「はい。・・くずっ・・ごめんなさい・・・」
「いや、悪いのは俺だ。お前が謝ることはないんだぞ・・・」
ハンドルを握りながら、ヴィクトールが自己嫌悪に陥っていたのは言うまでもない。
今まで、こうして会っても、アンジェリークを泣かせたことはなかったのだから。
そもそも、泣かせてしまうことに気づかなかったことが問題なのだ。


それから、二人は夕日の差し込む殺風景な部屋にやって来た。
こんな状態になって部屋に呼ぶこと。それに抵抗がないわけではない。
けれど、人目につくカフェに寄ったりしたら、アンジェリークに、それこそ余計な気を遣わせてしまうだろう。
「何か、飲むか?」
「・・・いいえ」
「・・・そうか。じゃあ、座るか」
いつしか、アンジェリークの座る位置になった場所に、彼女は疲れたように、ちょこんと腰を下ろした。
アンジェリークは、もう泣き止んでいたが、それは、我慢して涙を止めているのだとヴィクトールはわかっていた。
前に屈んで、そっと彼女の頭に掌を乗せる。
変な思考を巡らせなければ、訳もわからず不安にさせることはなかったのに。
ヴィクトールは、そう反省したが、今となっては取り返しがつかない。
アンジェリークの心を傷つけてしまったことに変わりはないのだ。


「俺は・・・お前が若い男と話しをしているのを目にしたとき、とても悔しくてな。多分・・・嫉妬なのだと思う・・・。それを口にしたら、お前を責めてしまう気がして・・・そんな大人気ない自分が許せなくてな。ずっと口を閉じていた」
「嫉妬・・・?」
暗く俯いていたアンジェリークは、その言葉を聞いて、フっと顔を上げた。
「そうだ。あの時素直に気持ちを話していたら、少なくともお前を不安にさせることもなかったのかもしれん。いや、そうしたとしても、嫌な思いをさせてしまう事には変わりないな・・・本当に、すまなかった・・・」
「ヴィクトール様・・・」
自分の膝の前で、うな垂れているヴィクトール。けれど、アンジェリークはそれが嬉しかった。
相手のことで一喜一憂するのは、自分だけではないのだとわかったから。
「私・・私も、ヴィクトール様が、大人で綺麗な女の人と、お話をしていたら、きっとそれだけでとても悲しくなって、そんな自分が許せなくなると思います・・・・」
「アンジェ・・・」
「でも・・そんなにご自分を責めないで下さい」
「そうだな。・・そのほうが、お互い悲しいもんな」
瞳には一杯の涙をためて。けれど、懸命に零さぬようにして、アンジェリークは微笑む。
ヴィクトールは健気な体をそっと抱き寄せた。
「お前は、やはり俺が思っているより、しっかりしているんだな・・・」
「いいえ・・・。ヴィクトール様のお気持ちがわかっていれば、勝手に落ち込むこともなかったのに・・・。私、それに気づくことも出来なくて・・・子供の自分が悔しいです・・・」
「こらこら、自分を責めるのはよくないだろ?今回は俺が悪かったんだから・・・」
二人は顔を見合わせて、きりがないなと、笑った。
「また機会があったら、海を見に行こう。今度は、夕焼けの海を見にな」
「はい・・」


とまあ、こうして元の仲の良い二人に戻ったわけなのだが・・・
夕日に染まった部屋で、抱きしめ合って、こんないい雰囲気になっているというのに、ヴィクトールは何処かぎこちなかった。
「その・・・アンジェリーク。お前に口付けてもいいか?」
「え・・・///」
「あ・・こういうことは聞くもんじゃないな・・すまん」
ふふっと漏らした唇を、そっと親指でなぞる。真っ赤になる頬にまず一つ、ヴィクトールは口付ける。
そして柔らかな唇に自分のそれを重ね合わせた。
優しく、なるべくアンジェリークを驚かせないように、舌を差し入れる。
二人がキスをするのは勿論初めてのことではない。
だが、深い口付けに、アンジェリークはまだ慣れていなかった。
おずおずと舌を丸めたまま、ヴィクトールに翻弄されるだけで、息苦しそうにして、真っ赤になり俯いてしまう。
そんな無垢な仕草を愛しいと思いつつ、ヴィクトールはそれ以上のことはせずにいたのだ。


ヴィクトールにとって、恋人を部屋に入れること イコール 一線を越える行為に誘うためのものではなかった。
まあ実際、一番最初に部屋に呼んだ時は、相当悩んだりもしたのだが・・・
一緒に食事を作ったり、語り合ったり。今までそんな時間を大切にしてきた。
だから、時が来るまでは待とうと思っていた。
そうでなければ、理性など保てるものではない。
けれど、今は・・・・
お互いの気持ちが近づいたせいなのか、愛おしいという想いが膨れ上がってどうしようもなかった。
そろそろ、アンジェリークは受け入れてくれるだろうか。もしそうならば、迷いはない・・


「アンジェ・・・もう少しだけでいい。ここにいてくれるか?」
「はい・・・・・私。今日は遠くに行くから、遅くなるって言って来たんです・・だから、まだ帰りません」
抱き寄せたまま、もう一度口付けると、何かを覚悟したように、アンジェリークは告げた。


いつものキスをするときのヴィクトールとはまるで違う。射るような燃える瞳が、アンジェリークを見つめる。
そのままソファに体を倒されて、口付けの雨が降る。
「嫌なら・・・言ってくれ」
そう言ってくれたけれど、口付けの激しさは増して、アンジェリークは苦しげに吐息を漏らした。
ぎゅっと広い背中に掴まり、ポロシャツを掴む。ヴィクトールはその行為も邪魔そうに、シャツを脱ぎ捨てた。
「あ・・・」
ドキリと胸が鳴る。逞しく引き締まった体。それは、彼のすべてを物語っているようで、アンジェリークの鼓動は更に高鳴る。
今日初めて見た傷跡を、アンジェリークは恐る恐る、指先でなぞった。
そんなたどたどしさに、ヴィクトールは冷静さを取り戻したようだった。
「・・・怖いか?」
「・・・・」
「・・すまない。優しくする自信はあったのに、いざとなったら、こうだ・・・」
ヴィクトールは大きく息を吐いて、アンジェリークを抱き上げると、奥の部屋のベッドに連れて行った。


「本当にいいのか?」
「・・・はい」
「大丈夫だ。後悔はさせないから・・・」
不安そうな瞳に、ヴィクトールは言葉を掛ける。
アンジェリークはそれを聞いて、小さく頷くと、静かに瞼を閉じた。


耳元に、首筋に、優しく唇を這わせながら、ワンピースを脱がせていく。
露になる肌にヴィクトールの唇が降りて来て、アンジェリークは身をよじった。
覚悟していたとはいえ、どうしても羞恥のほうが先に立ってしまう。
「あ・・や・・・恥ずかしい・・」
「・・・綺麗だ、アンジェ・・」
白い乳房に、赤い印が浮かぶ。大きな掌に包まれて、控えめな膨らみは柔らかく形を変えた。
優しくて、暖かい掌に、アンジェリークがそっと触れる。そして、躊躇いながらヴィクトールの髪を撫でた。
思っていたよりも柔らかい感触に、何度か指を滑らせて、細い腕で包み込む。
いつも見上げるだけの大きな彼が、甘えるように自分の胸に重なっている。
それは、くすぐったいような、嬉しいような、そんな感覚だった。


「ヴィクトールさま・・」
「ん?・・・」
「私・・・ずっと夢見ていたんです。こうして、ヴィクトール様に抱かれることを」
アンジェリークの口から、そんな言葉が漏れる。
もう少女の顔ではない、少し艶めいた表情にヴィクトールは、今まで感じたことのない程の胸の高鳴りを覚えた。
子供だと思っていたのは、やはり間違いだったのだろう。
ずっと大切にしていたのは、彼女にはこんな行為は早いと感じたから。
知らずに大人になっていくことに、焦りさえ感じて、ただの過保護になっていたのかもしれない。
「・・・お前は、いつの間にか、こんなに大人になっていたんだな」
ふるふると首を振る少女。頬を包み、その仕草を止めて口付ける。
乳房の愛撫に戻り、そして未知の場所へと唇を進めた。
まだ青い果実が、柔らかく濡れている。ピンク色の可憐な花弁は、まだ細く小さく咲いていた。
「あっ・・・や・・・ヴィクトールさま・・」
「・・・ここもすごく綺麗だ・・・」
温かいその雫をぬぐい、小さな真珠を舌先で転がす。ヴィクトールは優しく、まだ拓かない花弁を撫で続けた。
閉じた泉に指先を差し入れて、痛まぬように広げていく。
眉を寄せ、苦痛な表情のアンジェリークに胸を痛めながらも、彼女を追い込むように指を増やした。


「アンジェ・・・苦痛か?」
「いいえ。・・・・・・あ・・ごめんなさい・・・私・・・」
涙が溢れてきて、どうしようもなくて、アンジェリークは顔を背ける。
今からこんなに泣いてしまっては、ヴィクトールを困らせてしまうかもしれない。
けれど、高ぶる感情が快感となって押し寄せてくる。
どうしていいかわからずに、幸せな気持ちと不安がぐちゃぐちゃになって涙が溢れて来るのだ。
「・・・感じてくれているなら・・・嬉しいから・・・・」
涙を流すアンジェリークに、ヴィクトールはそんなことしか言ってやれず、ただ唇で涙をぬぐうことしか出来ない。
「アンジェリーク・・・愛してる・・」
途切れ途切れに囁いて、ヴィクトールは耐え切れずに、アンジェリークの中へ想いの丈を刺し貫いた。


今まで感じたこともない、壮絶な痛みがアンジェリークを襲う。
声も出ないほどの衝撃。けれど、必死にヴィクトールにしがみつく。
ゆっくりゆっくりと、奥まで埋め尽くされたとき、ヴィクトールの背中は汗をかき、とても熱くなっていた。
燃え滾る瞳の中に、時々映る優しい眼差し。
アンジェリークは懸命に瞼を開き、ヴィクトールの名前を呼ぶ。それに、彼は口付けで答える。
響く粘着音と、荒々しくなっていくお互いの呼吸。
愛おしいという感情など、とうに通り越している・・・
蕩けるほど、二人の熱が絡まり合い、一つになるまで、ヴィクトールはアンジェリークを求め続けた。


いつしか夕暮れは過ぎ、辺りは紫の闇に包まれた。
グレーに翳った白いシーツの上には、証が赤々と浮かんでいた。


「今日は・・お前をたくさん泣かせてしまったな。・・・すまん」
そう言ったヴィクトールの瞳はとても穏やかで優しい色をしている。
アンジェリークは溢れてくる涙もそのままに、彼の腕の中で静かに目を閉じ、幸せな眠りに落ちて行った。


その日の夜。アンジェリークはヴィクトールの部屋に泊まることなく、こうして家まで送ってもらった。
実際泊まって欲しいと思っても、軍の官舎は日曜祭日以外、一般の者は立ち入れない事になっている。
厳しい規約だが、軍に身を置くものとしては、それを破る訳にはいかないのだ。
それになんと言っても、ヴィクトールにはアンジェリークの家族・・・特に父親という大きな壁がある。
嫁入り前の愛娘に外泊・・など、自分が父親であったなら、許したくはないだろうから。


「アンジェ・・。あと一月と少しで、お前の誕生日が来るだろ?・・・その頃には、私邸が出来ることになっている。・・・それでだな」
もごもごと、行っていたヴィクトールに、アンジェリークは、パッと嬉しそうな顔になり、彼の言葉を遮ぎってしまった。
「是非、ヴィクトール様のお家に呼んでくださいね」
「いや、そうではなくて・・・だな」
照れて、頭を掻いているヴィクトールをアンジェリークはきょとんとした顔で見上げる。
そのあどけなさに、ヴィクトールは安心したのか、はっきりと告げた。
「お前と俺の家だ。・・・一緒に暮らそう、アンジェリーク」
笑顔は泣き顔になって、アンジェリークは今日何度目かの涙を流していた。


「おやすみ。アンジェリーク・・・」
「おやすみなさい。ヴィクトール様・・・」
そう言って、ヴィクトールは初めて、彼女の唇におやすみのキスをする。
アンジェリークの全てを手に入れれば、変な嫉妬にやきもきする事もなくなるだろうと思ったが、そんなことはない。
益々心配症で過保護になりそうな自分に、ヴィクトールは苦笑して、ぎくしゃくと歩いて行く、もう少女ではないアンジェリークを目を細めて見送るのだった。


――おわり――

最初は普通の話で進めておりましたので、長くなってしまった><
いや、普通にデートして、普通にそういう雰囲気にっていうのが書きたかったんですが・・・
ようわからん内容。なんつーか、本当にベタです。頭振り絞ってもこれでした;;
書き進めるたびに、こういう言い回し書いた覚えあるなぁと思いつつ、引き出しの狭さを痛感。
ヴィク様は、いつもに増してへたれです(泣)でも一年以上も我慢してるんで、我慢強いかと(笑)

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