白い・・・しろい・・どこまでも真っ白な世界。ここは・・何処。
私の魂は消えてしまったはずなのに。どうして・・・
何かの気配がする。近づいてくる。でも姿は見えない。
「・・・迎えに来た」
「?!」
突然の声に振り返る。低く掠れた声・・。
霧の中から現れた誰かが私に向かって歩いてくる。
大きな体。赤銅色の髪。琥珀の瞳。
(・・・ヴィ・・ク・・トール・・さ・・ま・・)
体が震えて動けない。声も出ない。
あの日のままの姿で、手を差し伸べ優しく笑う人。本当に貴方なの?
指先が触れる。握り締められる手。
温かい・・
忘れかけていた懐かしい温もりが胸を満たす。
「すまん・・・」
「・・・・」
「こんな形でしか、お前を迎えに来る事が出来なかった」
「・・・・」
「お前の側にいて、守ってやることが出来なかった・・・許してくれ」
その言葉に、私は首を振る。何度も、何度も。
何かか溢れて貴方が霞んでいく。熱いものが込み上げて崩れかける体を、その腕が支えてくれる。
「ヴィクトール様・・・?」
「ああ!アンジェリーク」
やっと声が出た。私の名を呼ぶ声に涙が零れる。あの哀しみの日からあんなに泣く事を忘れていたのに。
「よく顔を見せてくれ」
「うぅぅ・・・・」
「随分痩せたな・・だが、その瞳の輝きはあの頃のままだ」
このこけた頬が大きな掌に包まれた。哀しく、優しく貴方の瞳が揺れている。
「ずっと、お前を見ていた。長い間、よく頑張ったな。立派だったぞ」
暖かな言葉と共に貴方は私を強く抱き締めた。
同じ・・・
アルカディアで再会したあの日と同じように。
張り詰めていたものが、硝子が割れるように砕けて粉々になって、消えていく。
私は、声を張り上げて泣いた。
愛を求める幼子のように・・ただひたすらに。
「気が済むまで、泣けばいい・・・」
9年分の涙が堰を切った。
貴方の胸を何度も強く叩いて泣きじゃくる。
「今は、すべて忘れろ・・」
それから貴方は何も言わずに私を泣かせてくれた。
優しく髪を撫でて背中を摩って・・・私の名前を囁いて・・
どのくらいそうしていただろう。
私は泣き疲れて貴方の腕の中で眠った。
何もかも忘れて。
やがて目覚めるその時まで、ずっと・・・・
「ここは・・・何処ですか。私の魂はアルフォンシアに預けたはずなのに」
見上げると貴方は静かに微笑んだ。
「見ろよ」
その瞬間世界は変わる。地平線へ続く緑の絨毯と、優しい花々。
そして、大きな木。ここは・・まさか。
「女王よ・・・」
聞き覚えのある声が聞こえる。
「!?あなたは、エルダ?・・いいえ。アルフォンシア」
「今こそ償いを・・どうか」
「償い?」
エキゾチックな青い衣装を纏った長身の青年と、結った黒髪に鈴を鳴らす少女が目の前に浮かんでいた。
「宇宙創世紀の女王陛下、そして隣で守護する者よ・・」
「え・・」
少女の声は、あの日の救いを求める声だった。
私は言葉を求めて貴方を振り返る。
ただ微笑んだままで、背中を押す貴方。
「あのころの私は未熟でした。貴女の力と共に、我が身が衰えていきました。けれど今は、貴女が授けてくださった魂と共に、大きな力とこの姿を得ることが出来ました」
「そして、未来の宇宙を2度も救ってくださった・・ずっとお礼が言えませんでした。ありがとうございます。ささやかですが、どうか私達の力を受け取ってください」
アルフォンシアの言葉に続いて少女が心に語りかけて来る。
私と同じ空気を持ったその少女ば、聖母のような微笑を浮かべ、黄金の翼をはためかせた。
「偉大なる創世紀の女王に感謝と祈りを捧げます。魂の転生を・・」
大きな白い光に包まれて二人は彼方に消えていく。空からは白い羽根が舞い降りて、きらきらと美しい光を放った。
遠い記憶が蘇る。優しく、穏やかに流れる時間。
「ヴィクトール様・・・すべて知っていたんですか・・・」
「ああ・・」
手を取り合い私と貴方は見つめ合った。
「アンジェリーク。約束を果たそう今、ここで」
「はい・・・」
瞳を閉じて静かに交わす誓い。
お願いです。もう二度と私の前からいなくならないで下さい・・・
「ここは変わらないな。いつの時代でも」
「はい。未来の宇宙が平和でよかった。未来の女王の命が無事でよかった・・」
私は貴方の胸でもう一度泣いた。
「・・ハハ。お前らしいな。何一つ変わっていない」
そう言って私の体を抱き上げる。
「アンジェリーク。お前の笑顔を見せてくれ」
私は心からの笑顔を貴方に見せた。
忘れていたあの頃の私に戻るために・・
そして、貴方のために・・
「これからはずっとお前の側にいる。二度と泣かせない。」
「ヴィクトール様・・」
「辛い回り道はもう終わりだ。アンジェリーク・・・愛している。ここからまた始めよう」
私は強く頷いて貴方の肩に手をまわした。
この命が再び尽きてもずっと・・・私も貴方を愛してる・・。だからその頬に答えを返します。
命は巡る。哀しい運命など、きっとありはしない・・
どんなに時が流れても、強い想いは寄り添い離れることはない・・
永遠に・・・
―END―