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虜
初めてお前に触れたとき。それはいつだっただろう・・・
俺は今、涙に暮れるお前を見つめている。
手を伸ばしたが、ビクりと体を震わせ、お前は俺を拒絶した。
当たり前のように触れていたはずのお前が、もう遠い。
自業自得だ。
”大人”という卑怯な武器で、俺はお前を・・・
大切なお前を傷つけたのだから。
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学習が始まった頃。お前は俺に対して苦手意識を持っているようだった。
体を強張らせ、下を向いて教えを受けていた。
きちんと予習をしてきたのだろうが、課題に対する俺の問いにも、うまく答えられない事が多かった気がする。
これが(傷)が恐ろしかったのか・・・それとも、俺自身が怖かったのか。
だが、理由を聞いても、優しいお前は答えてはくれないだろう。
あの頃は・・・。お前の心を開こうと、俺は必死だったのを覚えている。
難しいことでも、少しずつ、根気よく取り組めと、そう優しく教えた。
そして・・・
頑張った時には精一杯褒めてやった。
そのお陰か、俺に対する警戒心はいつしか解かれていた。
大した事じゃない。小さい子を宥めるのと一緒だ。
俺はお前を、人見知りの激しい子供だと思っていたんだろう。
教え子以上の感情など無かったはず。
それが、変わってしまったのは・・・・
初めて資質が上がった日、俺はお前の頭を撫でてやった。
発端は些細な事だ。
お前は嬉しそうだった。満面な笑みで俺を見上げて来た。
その時・・・ 俺は一瞬の眩暈と共に、天使を見た気がした。
ごく普通の少女。少し内気ではあるが、はたから見ればお前はそういう子だ。
だが、違う。
儚い笑顔。しかしそれは、すべてを許し、包み込む慈愛の微笑み。
そして、静かで深い海のような瞳は、何よりも強い輝きで俺を魅了した。
あれを目にした者は、俺でなくても、お前に惹かれるだろう。
激しい焦りが俺を支配した。
それが一体何だったのか、あの時の俺にはわからなかった。
それからだ。俺の中で何かが狂い始めたのは・・・。
素直で努力家な少女は、日を増すごとに、女王候補らしくなって行った。
俺はずっと見守るつもりで、頑張るお前のために、出来る限りのことはしてやった。
お前は俺を頼り、俺を慕ってくれていると、自負して疑わず・・・
あくまで教官として振舞った。
だが・・・・お前に触れてしまうと、俺の自制心は忘却の彼方。
柔らかな感触。優しい香り。
お前の頭を撫でる。たったそれだけで、俺の感情はエスカレートした。
もっと触れたい。もっとお前を独占したいと・・・
そのうち俺は、お前の額に口付け、頬に触れるようになった。
白い肌が桃色に染まるのを楽しむように、そっと・・・
お前が微笑む。嬉しそうに、幸せそうに。無防備な笑顔で・・・
そんな顔をしないでくれ。そんな目で俺を見るな・・
その笑顔は、俺だけに見せてくれる訳ではないだろう?
・・・だから、俺はお前の唇を塞いだ。
誰よりも先に、お前の大切なものを・・・奪いたかった。
それから。俺は、資質を維持するため、毎日学習に来るようお前に命じた。
そうしないと、せっかくの星が壊れてしまうからと。
それは、本当のことだ。嘘をついているつもりはない。
学習が終わり、当たり前になった褒美の印をお前にやる。
だが、あくまで触れるだけに留めた。
そのうち少女は、俺に疑問符を投げかけて来るだろうと、予測して。
17歳の少女にとって、キスがどういうものなのか、それ位俺にもわかっている。
だからこそだ。優しく口付けることで、俺はお前の心を支配出来ると思った。
・・・少女の夢を、俺は壊しているのだろうか。
いや、違う。口付けるたびに、お前は、はにかむ笑顔を見せた。
それが、証拠だろう。
もっと俺だけを見るように。俺のことだけ考えるように・・・
俺は毎日お前の唇を奪う。
純真な少女の唇を穢す。
誰にも手を付けられないように・・・
そして、お前は、俺に夢中になるだろう。
その時が来たら―――
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試験も終盤に差し掛かった日。
お前はいつものように、予定の最後に俺のところに来た。
しかし、その顔は思いつめているようだった。
戯れはもう、お終いか・・・
俺はその時確信した。
「どうした・・・顔色が悪いようだが」
「いいえ、何でもありません」
それ以上は聞かず、学習を始める。
俺の教えが身に付いた証拠に、お前は気を逸らすことなく、学習に集中していた。
教官として、喜ばしいはずだ。
矛盾しているのはわかっている。
だが、この嫌な感じは、理性でもどうすることも出来ない・・
「よし。今日はここまでだ。よく頑張ったな」
指で顎をすくい、俺は少し強引にお前の唇を塞いだ。
強く自分のそれを押し付ける。
舌を入れたい衝動を必死に抑えながら、俺は体を離し、お前の頭をかじがしと撫でた。
さっきの感情を消すように・・・
いつもと違う様子にお前は気づいたんだろう。
見上げる瞳は決心したように、俺を見る。
「・・・ヴィクトール様」
「何だ」
「・・・どうして。どうして。・・・・私にキスするんですか?」
とうとう聞かれたか・・・
胸の前で結んだ手は、血の気が引くほど強く握り締められていた。
悪戯心が、俺を惑わす。
俺はお前の手にそっと触れ、答えた。
「・・・可愛い教え子だからだ」
お前の表情は落胆の色に染まった。
そして、
「じゃあ、レイチェルにもしているの?」
そんなことまで聞いてきた。
俺はお前をからかっているとでも思ったのか?
そんな訳がないだろう。今までお前は何を見てきたんだ。
そう、純粋だとかえって困ってしまう。
お前は困惑の表情で、俺を縋るように見つめて来た。
必死な様子に俺は満足気だった。お前の心は、もう手の内だと。
俺は細い体を引き寄せた。
「お前だけだ・・・」
そう、告げる。
だが、その言葉でわかって欲しいなどと、虫が良すぎたかもしれない・・・
壊れてしまいそうな体は、柔らかく俺の腕の中に納まった。
愛しいと思った。本当に、もうお前は俺だけを見ていると・・・
迷うことなく、俺はお前の唇を抉じ開けて、舌を進入させた。
驚き、逃げようとする体を腕で押さえる。
想いを注ぐように、深く口内に舌を巡らせる。
恐ろしいほどに甘美な感触に、俺は夢中でお前の舌を追った。
健気に動く舌を、誘い込んで絡ませる。
荒くなっていくお前の呼吸。湿った音と合わさり、俺の耳元で艶かしく響く。
濡れて溢れる蜜を飲み込んだ。
力の抜けていく体に、俺の独占欲は満たされていく。
これ以上のものはないという程の口付けを、俺はお前に与えた。
この制服をどうやって剥こうか。そんなことを考えながら・・・
長い時間、俺はお前の唇を貪っていた。
まだ辛うじて理性が残っていたのか・・
お前が俺の胸を弱々しく叩いていることに気がつき、いったん体を離した。
・・・・しかし、そこにいたお前は、泣いていた。
強い怒りが、普段は穏やかな海の色を濁らせている。
「どうして・・・どうして・・・」
何度もかぶりを振って、お前は泣き崩れて行った。
その時俺はやっと、目が覚めた・・・
男の独占欲が少女を悩ませ、傷つけていたということに。
「言わないとわからないか?」
そんなことを今更問うても、遅いすぎることはわかっている。
本当のことを告げても、もうお前は信じてはくれないだろう。
お前の微笑を曇らせて、何が楽しいというのか。
もう戻れないのか。許してはくれないのか。
確かに、お前は可愛い教え子だ。
可愛いと思いすぎて、俺は大事なことを見失っていた。
言葉さえも忘れるほど、虜になったのは、俺の方だということを。
――END――
*イメージイラスト
お題1の「キス」のヴィク様サイド。虜になったのはヴィク様ということなんです。はい。
引き続き、犯罪チックを目指したんですが・・・
どうも、筆者自身、ヴィクさんを悪い人にさせられないようです。
Hなくて、マジですみません・・・。
挿絵は・・・最初に描きあがったので、そこからストーリーを考えました。